ますフィラリア症とは何だ?とか、フィラリア症予防って?という基本的な部分は、動物用医薬品メーカーなど様々な媒体で分かりやすい説明がweb上に多数ございますので、そちらをご参照ください。

通年予防のメリット・デメリット

メリット
①混雑回避
混雑する春から夏を避けて、毎年冬にフィラリア抗原検査を行っても問題ない
②リーチバック効果
飲み忘れや消化器疾患(嘔吐・下痢など)による不完全な予防をリカバリーする効果が見込める
③定期駆虫
フィラリア症予防薬は回虫などにも有効です。
④忘れにくい
休薬期間がないので投薬を忘れづらくなります。

デメリット
・余分な費用負担(通年投与割引いたします)

メリット①混雑回避

健康なわんちゃんを飼育されていると、4~5月にフィラリア抗原検査±狂犬病予防接種でいらっしゃり、混合ワクチンも春~夏だったりすると常に混雑して待ち時間が長いイメージではないでしょうか。
しかし、通年1-2時間待ちが当たり前の状態が続いているわけではないのです。
病気の診察のみを行う大学病院や高度医療センターは別ですが、一般的な動物病院は4-6月に混雑して冬場は比較的外来数が少ないことが一般的です。もちろん冬場でも混雑することもありますし、重症例の検査・処置に時間がかかり待ち時間が長くなることもありますが、傾向としては冬場は閑散期です。
春に比べれば空いている冬場にフィラリア抗原検査を行って1年分の処方を毎年受ければ、混んでいる時期に来院しなくても良くなります。

メリット②


リーチバック効果

フィラリア症予防薬の100%駆虫効果は幼虫(L4子虫まで)に対してですが、それ以上成長した糸状虫に対して完全に無効なわけではなく、飲み忘れが3-4か月あった場合でも18-30ヶ月程度毎月の投薬を続けることで95%以上の駆虫効果を見込めると考えられています。
休薬期間がないことで、もし飲み忘れがあっても高い予防効果を期待できます。

メリット③定期駆虫


メリット④忘れづらい

通年投与のメリットと言って良いのかわかりませんが、フィラリア症予防薬は犬糸状虫(フィラリア)という線虫類に対する駆虫薬なので、回虫などその他の線虫類にも有効なものが多いです。
また、季節に関係なく毎月1日投与などにすれば忘れづらいと思います。

デメリット 余分な費用 

当院では必要最小限でも5-12月のフィラリア症予防をおすすめしております。
予防薬を通年投与すると、最小限の予防期間と比べて1~4月の4か月分の費用が余計にかかります。
当院では、費用負担が重くならないように通年予防割引をご用意しております。詳細はこちら
なお、当院では12ヶ月有効なフィラリア症予防注射薬の取り扱いはありません。

以下は詳細に興味のある方のみご覧ください。

フィラリア抗原検査とは

2つの目的のために検査します。
1.フィラリア症予防薬を投与しても問題ないか
検査なしでの内服開始は、子虫(ミクロフィラリア)の大量死による副作用リスクがあります。
2.早期に治療するため
放置すると肺や血管、心臓などへの障害が進行します。毎年検査することで早期発見に努めます。

1の目的を達成するためには、陰性が確認できたらその日から内服を開始するのが理想的です。
子虫がいないかどうか確認するのであれば、血液を直接顕微鏡で確認すれば良いという考え方もありますが、末梢血への子虫の出現は夜間に増えることが知られており、動物病院での日中の検査では検出率が低いです。このため当院では抗原検査キットを使用しております。

フィラリア抗原検査は、メス成虫抗原を検出するもので、幼虫やオス成虫は検出できませんが、メス成虫がいないということは子虫もいないということになります。
検査時点のメス成虫と子虫はいないということが確認できるだけであって、成虫になる寸前の幼虫がいる可能性はあります。その日に陰性でも数日後に陽性ということも理論的にはあり得ます。成虫になる寸前の幼虫が予防薬で駆除できるわけではありませんが、ミクロフィラリア大量死での副作用リスクを避けるため、本来は検査で陰性確認後すぐに予防薬投与を始めた方が安心です。

検査での陰性確認から予防薬投与開始までどれくらい空けても大丈夫なのかというエビデンスはないと思います。しかし、予防薬の投与間隔が1か月ごとであることから、1か月は大丈夫だろうということで推奨投与開始月(5月)の1か月前(4月)からとしている動物病院が多いと思います。当院も基本的にはそうしています。
薬剤の投与間隔が1か月であることと、検査陰性から投与まで1か月あけることは厳密には同じではありませんが、近しい状況ではありますので、多くの動物病院で1か月前からの検査としていることが多いと思います。

フィラリア症予防薬投与前には感染の有無を検査するように添付文書に記載がありますが、休薬期間がない場合には投与前も何もなくなるので、飲み忘れがない場合は検査を行わないという動物病院もあるようです。
しかし、何らかのエラーも含めて考えれば感度特異度ともに100%の検査はあり得ませんし、効果が100%保障される薬もありません。また、動物の場合は飼い主さまの気がつかないところで吐いている可能性もあります。
これらの可能性を踏まえ、当院では毎年検査を行います。検査を行わない場合は通年投与の場合でもフィラリア症予防薬の処方は行いません。

もしフィラリア症に罹患していることが判明した場合は、combination slow-kill法と呼ばれる方法(ドキシサイクリン+マクロライド系フィラリア症予防薬の内服)での治療をおすすめしています。
予防薬投与のリスクは非常に低いですが、治療はどの方法を選んでも肺動脈塞栓などのリスクを負います。安全確実に早期に駆除する方法はありません。
つまり、予防が非常に大事です。

フィラリア症予防薬の種類

現在は通年投与に適した1回の接種で12ヶ月効果が持続する注射薬が存在します。
しかし、少数ではあるものの、アナフィラキシーショックによる死亡例が出ています。

(動物)医療において、少ない可能性での副作用を全て排除することはできません。例えば混合ワクチンでも死亡例は出ていますが、当院ではワクチンの接種は推奨しています。
しかし、フィラリア症予防に関しては、薬の副作用との因果関係が濃厚な死亡例がほとんどない内服薬やスポット剤の利用が可能です。フィラリア症予防も注射薬でしかできないのであれば、ワクチンと同様に注射薬の使用を推奨いたしますが、より安全な選択肢があるのであれば、わざわざ危険な選択をする理由はないという考えから、当院では注射剤でのフィラリア症予防は行いません。
動物用医薬品の副作用情報は、どなたでもこちらのwebページで確認可能です。

今後も副作用情報を注視し、状況に変化があれば採用する予防薬は柔軟に変更してまいります。

以上は全てあくまでも当院の方針です。
フィラリア症予防の注射薬の利便性は高いと思いますし、抗原検査は絶対に5月からという動物病院もあれば3月から実施している動物病院もあると思います。通年予防には反対という先生もいらっしゃると思います。
当院の方針が絶対の正義だとは全く思いませんが、方針には理由があるのだということをまとめてみました。一度書いておけば、「詳細はホームページを見てください」と言えますし。

毎年春に2時間も待たされるのは嫌なんだよ、という飼い主さまは「通年投与で冬検査」を検討してみてください。絶対に短い待ち時間で済むと確約はできませんが、春に受診するよりは良いと思います。