非定型アジソン病
今回は飼い主様からお問い合わせをいただいた病気に関して書いてみようと思います。
「非定型アジソン」と呼ばれる病気は、「電解質異常を伴わない副腎機能不全」という意味です。
定型アジソンでは電解質異常がメインの病態で、鉱質コルチコイドという副腎から分泌されるステロイドホルモンが出なくなることで、ナトリウムの低下、カリウムの上昇など血液の塩分のバランスが崩れてしまいます。状態が悪い場合は急性腎不全と類似した病態になります。併せて糖質コルチコイドも分泌不全の状態となるため、強いストレスがかかると虚脱などの重篤な体調不良を生じる可能性があります。
非定型アジソンは電解質異常を伴わないため、診断が難しい(アジソン病を疑うことが難しい)のですが、当院は犬の慢性下痢では基本的にアジソン病かどうかの検査をしています。その他、原因がみつからず症状がはっきりしないような体調不良でも検査をおすすめすることがあります。
非定型アジソンも定型アジソンと同じで、病態としては副腎からのステロイドホルモン分泌不全なのですが、何故か電解質異常を伴わない場合に「非定型アジソン」と言います。
非定型アジソンでもほとんどの場合に鉱質コルチコイドの分泌不全が生じているそうで、何故電解質異常が起きないのかはよくわかっていません。何らかの代替機能が働いているようです。非定型アジソンと診断された症例の10%程度は、その後電解質異常を伴うようになるそうです。
電解質異常が生じていない場合、鉱質コルチコイドの補充は必要ないとされており、治療としては糖質コルチコイド(プレドニゾロン)の生理的量の補充(内服)+ストレスイベント前後は多めに内服、というのが一般的な治療です。
なので、非定型アジソンと診断されたにも関わらず、フロリネフ(鉱質作用の強いステロイド剤)を処方されるということは基本的にはないはずです。
定期検査は電解質とその他必要な頻度で腎臓肝臓値の確認等であって、診断後にACTH刺激試験を行うことは通常ありません。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の場合は治療効果のモニターとしてACTH刺激試験を行いますが、アジソン病では診断時のみです。
ACTH刺激試験とは、副腎皮質の予備能の検査です。
ACTHとは副腎皮質刺激ホルモンです。ACTHを通常の生体での分泌よりも多く注射することで、副腎皮質に予備的に残っているコルチゾールを分泌させます。
アジソン病の治療は副腎から分泌されていないコルチゾールを内服で補うという治療であって副腎機能が回復するわけではありません。従いまして治療を開始したとしてもACTH刺激によってコルチゾール値が上がることはありません。もし刺激後の数値が上昇したら、それは治療が上手く行っているわけではなくて、診断が間違っていたか、重症関連性副腎不全(CIRCI)からの回復ということになりますでしょうか。
一般的にはアジソン病の治療開始後にACTH刺激試験を行うことはなく、あるとしたら治療反応等から診断を再検討したい場合ではないでしょうか。
当院ブログに記載してあることと、現在かかられている動物病院で行っている検査や治療が異なるというご相談をいただくことがあります。ブログでは一般的な典型例のことを書いていますが実際の生き物の状態は複雑です。典型例のようにキレイに診断・治療ができる症例ばかりではありません。どの動物病院でも、各獣医師がその時に最良だと思う検査や治療をご提案し、飼い主さまの同意をいただいて診療していると思います。
不安な点は率直にかかりつけ獣医師に伝えて説明してもらいましょう。不安や不満を抱えたまま検査や治療を続けるのは、動物にとっても飼い主さまにとっても、獣医師にとっても良くないので、もろもろの疑念が大きくなってしまう前に都度ご相談されるのが良いかと思います。
その上で、もし当院でセカンドオピニオンが聞きたいという場合は、可能な限り全ての記録を持って動物を連れて診察にいらしてください。
薬の名前がわからないとセカンドオピニオンは不可能ですし、かかりつけの動物病院が休診の際のリリーフ診療も非常に難しくなります。同じ薬を過量に投与してしまったり、併用禁忌や注意の薬を使ってしまうことがあり得ます。大切な愛犬愛猫に何の薬を使っているのかを把握しておくことは大変重要です。人間だってお薬手帳がありますよね。何の薬を使われているのか、かかりつけの先生にしっかり都度確認しましょう。それが大変な場合は、飼い主様からいちいち申し出なくても何の薬を使っているのかしっかり明記している動物病院をかかりつけにする方が安心です。