尿中に細菌がいる≠抗生剤使用
近年、安易な抗生剤の使用はやめましょうということがかなり定着してきたと思います。
昔はヒトの病院でも風邪で抗生剤処方が当たり前でしたね。今は安易に処方されません。ウィルス性だったら効果がありません。
効果がないだけで害がないなら、そこまで目くじらを立てなくてもなんとなく使って良いと思いますが、あるんですよね害が。
何も対策しなかった場合、2050年には薬剤耐性菌による死亡者数はがんによる死亡者数を超えて、国内で1000万人にのぼるのではないかと言われています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189799.pdf
ですから、ヒトにも動物に対しても、抗微生物薬は適正に使用しましょうと強く推奨されております。
思い起こせば、卒業したての頃は犬が皮膚病だったらセフェム系抗生剤とステロイド剤の内服を処方するのが当たり前でした。下痢の犬猫にも抗生剤を出すのが当たり前で、出さないと怒られたことを覚えています。
今は、皮膚病にはなるべく抗生剤は使用しません。よほどひどい場合は一定期間内服も使用しますがなるべく使いませんし漫然とは使いません。外用剤もシャンプーや消毒剤がメインで抗生剤はなるべく使いません。もちろん必要あれば使いますが。
下痢に対しての抗生剤は、今となっては最後の手段です。各種検査で何にも異常がなくて、高繊維食にも低アレルギー食にも低脂肪食にも何にも反応がなければ抗生剤を試すこともあるかもしれない、くらいです。※組織球性潰瘍性大腸炎疑いは除く
そして使わなくなって困っているかというと、困っていないです。むしろ今の方が早く治りますし、抗生剤が必要な場合に耐性菌で困ることが少なくなりました。
さて、そんな抗生剤を使うかどうか判断が分かれる病態のひとつとして、症状がない子の尿検査で細菌が検出された場合があります。
健康診断での検査や、尿比重・蛋白尿の確認のための検査では血尿や頻尿がなくても尿検査を行う場合があります。
血尿/膿尿や頻尿、発熱などがあって細菌が検出された場合は、当然抗生剤が必要です。細菌性膀胱炎や腎盂腎炎が疑われます。
では、無症状だけれども尿から細菌が検出された場合はどうしましょう。
ヒトでは、無症候性細菌尿は基本的に無治療が推奨されています。(妊婦や手術前などを除く)
動物でどうかというのは明確にされていないと思いますが、基本的にはヒトと同様に無治療で良いと思われます。菌がいても病害を引き起こしていませんし、抗生剤で治療したとしてもまた短期間に再発します。しかもただの再発ではなく薬剤耐性菌が増えるリスクがあります。
腎盂腎炎の既往歴があったり、腎・尿管結石の存在などハイリスク症例では抗生剤の使用を検討しますが、その他の併発疾患を伴わない健康例の無症候性細菌尿は無治療経過観察(定期的尿検査)としています。
当院では抗微生物薬の適正使用に留意して、ヒトと動物にやさしい治療を目指しております。