犬アトピー性皮膚炎の治療目標

FINAL ANSWER認定動物病院の効果なのか、単純に気温が上がってきたからなのか、わんちゃんのアトピー性を疑うような皮膚炎で受診していただく症例が増えてきました。
3歳未満で初発の症状で、というよりは高齢になって徐々に悪化してきてしまって、という初診の方が多いです。

当院にいらっしゃる犬アトピー性皮膚炎の患者さんは、だいたい以下の2パターンが多いです。
①これまでの治療で痒みや皮膚症状が改善しない
②お薬を処方されている間は良いけれど、切れると悪化を繰り返して困っている

①の場合は治療初期からアポキルを使っている子が多いです。
アポキルは副作用は少ないですし、かゆみ止め効果の発現が速く確実なので大変優れた薬で、現代の犬アトピー性皮膚炎で最も使われている薬だと思います。当院でもよく使っています。
ただ、皮膚の赤みや肥厚など、皮膚の炎症による変化を正常化させる力は弱いので、かなり悪化した状態で添付文書の用法用量通りに単剤で使用すると上手く行かない場合があります。

②の場合、治療は上手く行っているわけですよね。何が問題なのかというと、獣医師と飼い主様の間で治療目標を共有できていないのが問題です。
飼い主様は、一定期間治療すれば根治できるとお考えなので、皮膚炎が改善した段階で治療をやめてしまいます。しかし、犬アトピー性皮膚炎は体質ですので、根治はできません。人間に置き換えると花粉症と考えていただければわかりやすいでしょうか。
抗ヒスタミン剤や鼻粘膜の焼灼など様々な治療がありますが、花粉症自体は根治しないですよね。各種治療が有効な間は症状が軽快すると思いますが、何もしなければまた花粉症の症状が発現します。犬や人のアトピー性皮膚炎も同じです。残念ながら一定期間の治療だけで根治はしません。
じゃあ治らないなら治療しても仕方がないのかというと、そんなことはないですよね。放置したら痒いのは辛いじゃないですか。

なので、「動物の体に全く負担をかけないスキンケア+負担が少ない最低限度の投薬で、痒みがほとんどない状態を維持する」ことが目標になります。

私は皮膚科専門医でも研究者でもないですし、ドッグショーにも興味はありません。動物がストレスなく過ごせて、その様子を見て飼い主さまにも幸せになっていただきたいだけです。多少赤みやフケがあっても良いんじゃないかと思います。それを動物が痒がっていないなら。

動物の体に負担がない皮膚のケアや体質改善に関しては、シャンプー、保湿剤、サプリメントが無数に存在します。ヒトでもそうですよね。
適切な保湿ケアを毎日行うのがベストですし、おすすめしているサプリメントも使っていただけると徐々に効果が出てくると思いますが、手間やコストがかかります。
スキンケアやサプリメントは、信じて続けた飼い主様だけが効果を実感できるところでして、中途半端にやってもあまり効果がないことが多いです。安価なものから高価なもの、手軽にできるものから面倒なものまでいろいろありますので、無理なく続けられる範囲で検討しましょう。

治療薬に関しては、最終的にはアポキルやアトピカ、サイトポイント+ステロイド外用薬週1回くらいで維持することが目標になってきますが、飼い主様のご希望と動物の状態によってどの薬をどう使うのかは変わってきます。

人でも同じです。以下の九州大学のHPに人でのアトピー性皮膚炎の管理に関して記載があります。
https://www.kyudai-derm.org/atopy/docter/16.html
プロアクティブ治療を継続することが大切です。人と違って全身に被毛があり飼い主さまが外用してあげなければならないので動物では内服薬を用いることがほとんどである点は違いますが、考え方は一緒です。

人も動物もアトピー体質を根治させることはできませんが、体に悪影響がほとんど出ないような弱い治療とスキンケア+α(腸活サプリなど)で良好な皮膚の状態を維持することが多くの場合で達成できます。
もちろん中には治療反応が悪く、専門医に診ていただく必要があるような場合もありますが、ほとんどの場合は当院での治療で飼い主さまにご満足いただけるレベルの状態維持ができています。

犬アトピー性皮膚炎の場合は生涯にわたっての治療とケアが必要になりますので、獣医師と飼い主さまの間で維持治療内容の目標を決めて、都度相談しながら治療を続けていくことが大切です。目標は随時変更して問題ありません。一度決めたら動かせないというものではありません。
アトピー性皮膚炎の治療はプロアクティブ治療の継続が必要ということを理解して、無理のない範囲で持続できる方法を獣医師と相談しましょう。