猫の歯科疾患 吸収病巣(Tooth Resorption(TR))

猫の飼い主の皆さまは「吸収病巣」って聞いたことありますか?

歯質が吸収されて骨用組織に置換される病気です。
ちょっとわかりづらいですね。イメージ的には歯が溶けて消え去ってしまう感じです。骨用組織に置換されるので穴も残らないです。見た目は何もなくなります。
実は10歳以上の猫ちゃんの約7割が罹患しているとされます。原因不明のため予防法はありません。治療は抜歯もしくは歯冠切除(歯茎から出ている部分を切り取る)しかありません。

非常に罹患率が高い病気ですが、あまり問題視されません。最終的に全部溶けてしまえば問題ないからですね。
歯科診療を専門的に行っている動物病院では積極的に抜歯するのかもしれませんが、動物の抜歯は全身麻酔下でないとできません。全身麻酔にはリスクもありますし、術前検査を含めると費用も高額になります。
一般的な動物病院では口を痛がる症状が顕著でなければ、なかなか検査・治療には踏み切れないことが多いです。

トップ写真は、「奥歯から出血して他院で抗生剤などの注射を打ってもらったが、口を痛そうにしてほとんど食事を摂れない」ということで当院にいらした猫ちゃんのレントゲン写真です。
当院にはこのような一般的なレントゲン機器しかないので、特に上顎の歯根の状態は把握が難しいです。できれば歯科用レントゲンやCT撮影が可能で歯科の専門診療が受けられる動物病院の受診が望ましいです。
本症例の飼い主様にもその旨お伝えいたしましたが、口が痛い状態が数日続いていた症例なので飼い主様としては早く治してあげたかったのでしょう。当院での処置をご希望されましたので即日全身麻酔下で抜歯を行いました。
左写真の赤丸は出血した部分の歯です。歯根がほとんど確認できません。右写真の赤丸は対側の同部位です。こちらも完全に正常なのかと言われるとあやしい感じもしますが、歯根が確認できます。

この子はおそらく吸収病巣の影響だと思われますが、歯冠が割れていました。
可能な限り歯根と思われる部分を含めて抜歯を行い、抜歯窩の歯槽骨を平滑に削り、歯肉を切開して剥がして伸ばして縫い付けるという歯肉粘膜フラップ術を用いて閉創しました。

実はこの数日前に、私自身が上顎の親知らずが虫歯で歯が欠けてしまいまして、電話で問い合わせた歯医者さんで即日抜歯してもらってとても助かりました。歯が痛いのはつらいので、即日対応してくれて本当にありがたかったです。人は縫わなくていいんですね。歯根も太いからそうそう折れないだろうしちょっとうらやましい...
それはさておき、なんだが自分と重なってしまったので、この子も即日対応できて良かったです、再診はまだなので経過が良いといいのですが。特に連絡はないのできっとご飯をたべられるようになってくれているのだと思います。

吸収病巣を見つけたからといって、即全身麻酔下で抜歯とはならないですが、痛みにより生活に支障をきたす場合は抜歯を検討しましょう。わんちゃんは何故か歯が折れたりしてもあまり痛みの症状を示さないのですが、ねこちゃんは痛みの症状が出ます。
歯科専門診療を行っている動物病院をご希望であればご紹介も行いますし、当院でどうにかしてほしいというご希望の場合は、限界はあるものの可能な範囲でこのように当院でも歯科処置を行っています。

以下は抜歯後のレントゲン写真です。