犬の歯周病の内科的治療・ケア ~抗生剤とエリスリトール~

高齢なので全身麻酔はかけたくないけれども、歯周病が酷くてどうにかしたいというわんちゃんが多くなっている気がします。

歯周病の正しい治療は、歯周病菌の住み家となっている歯石の除去や、歯周組織/歯根の状態によっては抜歯です。
ただ、わんちゃんに「口を大きく開けて動かないでくださいね」と言っても通じないですから、動物の歯科診療は治療というか検査の段階から全身麻酔下でないとほとんど何もできません。

そして正しいケアは歯磨きです。人だっていまだに歯みがきですよね。より簡単で確実な方法があれば人でとっくに実用化されているはずです。そうじゃないということは、やはり歯みがきが欠かせないということです。
ただ、そうはいっても既に歯周病で簡単に出血するような状態のわんちゃんに歯みがきしろって言っても無理ですよね。痛がっちゃいます。

なので、正しい結論としては、
・毎日歯みがきしましょう
・それでも沈着してしまう歯石は、超高齢になる前に全身麻酔下で歯石除去(スケーリング・ルートプレーニング・ポリッシング)しましょう
ということになります。

でも、そんなこと言ったって、もう15歳でなんだか痩せてきて活動性も落ちてきているんだけどお口が痛そうで、どうしましょう!っていうことだってあるわけです。
加齢による衰えを認める平均寿命前後のわんちゃんに対し、全身麻酔下で歯科処置をするかっていうと、私にはその勇気はないですし飼い主様もご希望されないですよね。でも口は痛いわけです。どうにかしなきゃいけません。どうしましょう。

とりあえずは抗生剤ですよね。最初は効くと思います。でも、抗生剤なら何でも良いわけではありません。
歯周病菌は主に嫌気性菌ですから嫌気性菌に効果がある抗生剤でないと意味がありません。
たまにアモキシシリン(アモキクリアなど)やセファレキシン(セファクリアなど)が処方されているのを診ますが、よほど特殊な例でないと効かないでしょう。
当院では、犬の歯周病に対する抗生剤の第一選択はクリンダマイシン(ビルデンタマイシン)です。多くの動物病院で同じなんじゃないかと思います。
ただ、原因となる感染巣を除去(抜歯)していないわけですから、適切な抗生剤を一定期間飲ませても完治とはならないです。再発と抗生剤投与を繰り返していると耐性菌が増えて効かなくなってくる可能性があります。
根治させるには抜歯するしかなく、それができなくて困っているのでどうにかできないものなのかと悩みどころなわけですが、補助的には有効性が期待できそうな基礎研究結果が岐阜大学から2022年に発表されています。以下のプレスリリースです。
https://www.gifu-u.ac.jp/news/research/20220824.pdf
エリスリトールという糖アルコールが培地上で犬の歯周病菌を抑制したというものです。臨床研究ではありませんが期待が持てそうな研究結果です。
エリスリトールとは、人のデンタルケア製品でよく使われるキシリトールの仲間の糖アルコールです。犬ではキシリトールは肝毒性や低血糖を起こすたけ使用できません。犬ではエリスリトールがキシリトールの代わりになりそうですね。
昔からあるサプリメントにもエリスリトールが入っていたりもしていたのですが、かなり配合量は微量だったのではないかと思われます。この研究を受けて、エリスリトールを高濃度配合のデンタルジェルや飲水に添加するサプリメントなんかも発売されているようです。

ただ、そういった動物用の製品になると、気軽に試すには若干お高い価格になっちゃいます。商売ですからね。
でも、エリスリトールを与えれば良いんだったら、エリスリトールの粉って安価に売ってますよね。
https://x.gd/Novl4
これでいいんじゃないんですかね?
安全に投与できる量は以下を目安に考えれば問題なさそうです。
http://www.jpec.gr.jp/detail=normal&date=safetydata/a/dae15.html

高齢犬の歯周病でお困りでしたら、まだ十分なエビデンスがある方法ではありませんが、エリスリトールを補助的に使って治療してみることも検討しましょう。細かい使い方に関しては診察しながらご相談が良いと思います。
もちろん若いわんちゃんに予防的に使うのも良いと思います。

ただ、かなり高齢になってからお口のトラブルを抱え続けるのはかわいそうですからね。そうならないように、毎日の歯磨きと、それでも歯周ポケットが埋まるような歯石の沈着が生じてしまう場合には全身麻酔下で歯石除去を行いましょう。

エリスリトールを試してみようかなという飼い主様や、歯石除去をご希望の飼い主さまは、はら動物病院までご相談ください。