専門は何ですか?
タイトルのようなご質問をいただくことがあります。
正直なところ返答に困ってしまいます。何か専門医や認定医を持っているわけではないので、特定の専門分野はありません。しかし、何がどこまでできるのかは動物病院によってかなり差があるので、そういったご質問をされるお気持ちはよくわかります。
ということで、もしかしたら他院とちょっと違うかもしれないといった点を書いてみます。
①混合ワクチン/抗体価測定
当院の特徴としては、何の説明もなく予防接種を行うのではなく、犬の5種ワクチンをご希望の場合と猫の3種ワクチンをご希望の場合には、抗体価測定を行うかどうかのご相談をするようにしています。
犬猫ともにコアワクチンという必須のワクチンは3年(以上)ごとでも良いのではないかというガイドラインが海外から出ています。
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf
当院では、これをそのまま鵜呑みにするのではなく、その他の情報や国内事情を踏まえてどのようなワクチネーションが最適なのか飼い主様とご相談しながら接種しています。
具体的には診察にいらしてください。
②循環器診療
心エコー検査が可能です。
心エコーは検査者の技術はもちろんですが機械の性能によるところも大きいので、見えないもの(一部の稀な心筋症など)は見えないですが、一般的な心エコー検査は犬猫ともに行っています。
犬の弁膜症も猫の心筋症も心エコー検査が必須ですので、今やほとんどの動物病院で行われていると思いますが、もし心臓病なのにエコー検査が行われていないことでご心配されている飼い主様は当院までご相談ください。
やわらかい専用マットでなるべく動物に負担がかからないように配慮しています。
当院では、犬の僧帽弁閉鎖不全症の心不全への進行の指標として一般的なLA/AO(左心房大動脈比)やE波A波(左室流入血流)だけでなく、LVOT VTI(大動脈血流波形の面積)にも注目して検査を行っています。
昔のように心雑音が聞こえたからACE阻害剤の処方、というのは今やエビデンスに反する治療ですし、かといって「ACE阻害剤は意味がない!」というのも極端で、最終的にはピモベンダン、ACE阻害剤、トラセミド(orフロセミド)、スピロノラクトンの4剤を使うのが現在の標準的な内科治療ではないかと思います。ただ、現在のところガイドラインがあるのはピモベンダンの投与開始に関してのみで、その後の治療には明確は基準がありません。なんだかんだ言っても結局安静時呼吸数が一番信頼できるような気がするので、心臓病の動物の飼い主様は軽度な場合でも週1-2回、進行した状態ならば毎日数えましょう。
③皮膚・耳科診療
アポキルやサイトポイントなどの非常に有効で副作用の少ないかゆみ止めが登場した結果、治療導入期や増悪期の皮膚炎がひどい時にもこれらの薬を使用されて効果が中途半端で症状の改善が乏しい症例をよく診ます。
当院は皮膚科専門医の伊從先生が主催するFINAL ANSWER ACADEMYの認定動物病院となっております。
https://www.google.com/maps/d/u/0/viewer?mid=1mVdA1hOO3rfCfKyx1jglqsOcoVeqd2s&hl=ja&ll=35.62819292675732%2C140.19639711267976&z=11
皮膚科専門医や認定医ではありませんが、当院での治療で良好に維持できるようになった症例も多いですので、皮膚科疾患でお困りの飼い主様はどうぞご利用ください。
獣医師が治療初期や増悪期にステロイドをしっかり使うことと、飼い主様にはマメな保湿と週1-2回の外用ステロイドなどのプロアクティブ療法を継続していただくことが犬アトピー性皮膚炎の治療の大事な点だと考えています。
④消化器科診療
いわゆる下痢止め(ベルベリン)と抗生剤(メトロニダゾールなど)をほとんど使用しなくなりました。
ベルベリンに関して、ある獣医内科専門医は「必要性を感じたことがないので一度も使用したことはない」とおっしゃっていました。当院は専門医ではなく一次診療クリニックですから、飼い主様のお気持ちや排便回数が多いことによる生活の問題を改善するべくベルベリンの注射を打つことはたまにあります。しかし、内服で処方することはほぼないです。
抗生剤に関しても、急性下痢に初手から使うことはほぼないです。ボクサーやフレンチブルで組織球性潰瘍性大腸炎かもしれないと思ったら使うかもしれませんが。
急性下痢に対して抗生剤使用が正当化されるのは、上記の組織球性潰瘍性大腸炎を疑う場合と発熱などの全身症状を伴う場合のみです。
慢性下痢に対しては以下の論文に基づく診断アプローチと治療を行っています。
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jsap.13122
消化器疾患に限った話ではありませんが、医療でも獣医療でも不必要な抗生剤投与を極力行わないことが求められています。
数年前の厚生労働省からの発表では、このまま何の対策も取らなかった場合には2050年の耐性菌による死者数は悪性腫瘍の死者数を抜いて全世界で1000万人と予想されるということでした。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000189799.pdf
消化器疾患は、急性でも慢性でもプレ/プロバイオティクスと食事療法が非常に有効です。安易に抗生剤を使用しないことが、動物と飼い主様の健康を守ることにつながると考えています。
⑤整形外科
私自身は整形外科の執刀をしておりませんが、エルムス動物医療センターさんや埼玉動物医療センターさん等で整形・神経外科を執刀されている高瀬雅行先生による手術を当院で受けていただくことが可能です。
前十字靭帯断裂症例のTPLO術や、肘関節の骨折など、既に当院で多数の症例をご執刀いただいております。
整形外科手術は、桜の街どうぶつ病院の坂本先生にお願いすることもあります。
一般の動物病院では、骨折などの整形外科手術症例は年に数例です。たまにしか手術していない獣医師による手術よりも、毎日整形外科手術を執刀されている先生に手術していただく方が治療成績が良いのは自明だと思います。
⑥神経科
当院はこの規模の動物病院としては特発性てんかんの症例が多く、現時点で4症例以上の治療をお任せいただいております。
中には発作のコントロールが難しい症例もいるので、現在の当院には輸入薬のPexion(イメピトイン)を置いています。
犬の抗てんかん薬の中で、単剤療法のエビデンスレベルⅠかつ推奨レベルAの薬はフェノバルビタールとイメピトインの2剤しかありません。日本国内で第一選択として使用されるコンセーブ(ゾニサミド)は、国際的にはエビデンスレベルⅢの推奨レベルCだったりします。
ゾニサミドは日本で作られた薬なので国際的には広がっておらず、逆に日本にはゾニサミドがあることで(?)イメピトインの販売がありません。
また、発作重積となった場合に、挿管が必要な全身麻酔の前に試すことができる最後の薬剤としてケタミンがあります。ケタミンは現在麻薬指定されているので、麻薬施用者や管理者の免許を取得していなければ使用できません。
私は手術時の鎮痛薬としてモルヒネやフェンタニルが使いたいこともあり、麻薬施用者免許を取得しています。ケタミンも用意してあります。
難治性てんかんでは、最終的には脳電図や24時間管理が可能な人員がいる専門病院でないと治療継続ができない状況というのもあり得ますが、てんかんを診るんだったらケタミンを備えておくことは義務みたいなものだろうと思って準備してあります。
もちろん、レベチラセタムや臭化カリウムも使用していますし、食事療法をおすすめすることもあります。
また、発作の緊急薬としてはミダゾラムの点鼻投与を推奨しています。
現在ではジアゼパムの座薬は、今起こっている発作を直ちに止めるほどの即効性はないという理解が一般的になっています。(以下の73ページ参照)
https://nestle.jp/sites/g/files/yjnsyp131/files/brand/purina/csv/purpleday/dr.hasegawa.pdf
というように、様々な診療科目において一次診療クリニックに求められるレベル+αをご提供することを目指しております。
あらゆる体調不良の際にも、予防医療での受診でも1stチョイスとして選んでいただけるように今後も精進してまいります。