お薬の流通状況 2024年10月

ヒトの医療でも様々なお薬が販売休止や流通制限がかかって大変みたいですよね。
最初はコロナ禍での需要の増大やジェネリックメーカーの製造不正などの影響と聞いておりましたが、今のこの状況の原因は何なのでしょうか。円安や国民皆保険の影響で薬価が相対的に安く、原料を海外に買い負けているのではないかというような噂話を聞いたりもしますが、はっきりしたことはわかりません。ただ、事実として買えない薬や納入に時間がかかる薬が複数あり、常に変化しています。
当院で使用している薬剤で流通が安定していないものは、以下のような状況です。

・猫3種ワクチン
外に出ない猫ちゃんに使用しているワクチンで、当院で使用する猫ワクチンはほぼ3種ワクチンです。
当院ではピュアバックスの3種ワクチンを使用していたのですが、現在メーカー欠品で購入できません。
ちょっと前まではピュアバックス以外の3種ワクチンが全て欠品だったのですが、現在はピュアバックスが買えなくなりました。
本稿執筆現在はTRI CATという3種ワクチンを購入してありますので、ワクチン接種は可能です。
当院は成猫には基本的に抗体価測定をおすすめしており、ワクチンの毎年接種はおすすめしておりませんが、しばらくの間3種ワクチン接種が必要な場合は、その時購入可能なワクチンを接種するしかない状況です。

・ヒアルロン酸ナトリウム点眼液
今のところどうにか必要量は確保できておりますが、発注しても順番待ちで、すぐには買えない状況です。常に発注を入れておいて納入待ちしています。
完全な代替品とは言えませんが、輸入薬のヒアルロン酸ナトリウム配合の眼科用潤滑ジェルを併用していく予定です。こちらも発注はしていますが、輸入薬なのでなかなか届きません...

・フルタイド(フルチカゾン)
喘息の猫ちゃんや慢性気管支肺疾患のわんちゃんに使用する吸入ステロイドです。
動物でのエビデンスが豊富で副作用が少なく効果の高い薬で、しかも安いのです。
こちらも出荷制限がかかっていてすぐには手に入りません。

すぐに必要ということだと、ステロイドの種類は変わってしまいますがキュバール(ベクロメタゾン)という製剤にするか、気管支拡張薬配合のアドエア(フルチカゾン+サルメテロール)なら手に入ります。
アドエアとフルタイドに配合されているステロイドはフルチカゾンで同じですし、フルタイド100からアドエア125にする場合はステロイドの量としても増えますし気管支拡張薬配合なので、効果としては安心です。
フルチカゾンの含有量が増えることでの副作用の懸念はほぼ無視できるレベルだと思います。
ただ、アドエアはフルタイドの1.8倍程度の納入価で、キュバールでも1.6倍程度の納入価です。(1噴霧あたり換算で)
飼い主様への処方価格も納入価と同様に高くなってしまいます。

個人的にはやや高価でもアドエアがおすすめです。フルチカゾンのエビデンスが豊富だということもありますが、残回数のカウンターがついているのが安心です。フルタイドとキュバールにはカウンターがありません。適正使用回数を超えてもガスは残っていて、普通に使えてしまいます。しかし適正使用回数後の噴霧は有効成分が減少するため、気がつかない間に症状が悪化するおそれがあり、噴霧回数を数えるなり終了予定の日付をメモしておくなどの対応が必要になります。
その点、カウンターつきのアドエアなら便利で安心です。


・その他
少し前には、吸入麻酔薬のイソフルランや止血剤のスポンゼルも買えませんでした。滅多に使う薬ではないですがチオラは人でも適応が厳密に限られて動物病院では買えない状況が続いています。
動物用医薬品は徐々に増えてはおりますが、まだまだ人体用医薬品を使用するケースが多く、人体用医薬品に流通制限がかかると動物病院では基本的に購入不可能になってしまいます。

以上は現在の状況でして、買える薬買えない薬は変わって行きますが、その状況下でできることをやっていくしかありません。薬剤の輸入を含めて可能な限りの対応を続けてまいります。
ないものはないので、どうしようもないこともありますが、薬が手に入らない場合の代替治療が上手く行かないなどのご相談がございましたら、はら動物病院の受診をご検討ください。