FIPの治療期間 2025年3月時点の情報

FIPが治る病気になって久しいですが、その治療に関しては疑問な点がまだ多く、臨床研究が世界各国で行われています。

FIPって何なの?という方は過去の投稿をご覧ください。
https://hara-ah.org/2023/12/06/fip%e3%80%80%e7%8c%ab%e4%bc%9d%e6%9f%93%e6%80%a7%e8%85%b9%e8%86%9c%e7%82%8e%e3%80%80%e3%83%a2%e3%83%ab%e3%83%8c%e3%83%94%e3%83%a9%e3%83%93%e3%83%ab%e3%81%a7%e3%81%ae%e6%b2%bb%e7%99%82/

現在、注目されているのは適切な投薬期間に関してです。
現在のガイドラインで推奨されているのは12週間84日間の投薬です。
しかし、実は12週間の投薬には明確な根拠がありません。
獣医内科専門医の話では、過去に治療薬として研究されたGC-376の論文で12週投与群の成績が多少よかったかもしれない、というのがあり、そこからなんとなくFIPには12週投与がスタンダードになってしまったようだ、ということでした。
現在主流のレムデシビル、GS-441524、モルヌピラビルはいずれもRNAポリメラーゼ合成阻害薬の仲間で、GC-376はメインプロテアーゼ阻害薬です。機序が大きく異なる薬で、メインプロテアーゼ阻害薬を使用したFIPの治療は生存率が35%程度ということで、現在は使用されなくなりました。RNAポリメラーゼ合成阻害薬の場合は、報告によりますが80-95%程度の生存率が見込めるようです。

かなり治るようになってきたFIPですが、12週も猫に内服させるのは大変ですよね。そこで6週で治療してみました、という報告が出ました。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11281457/#viruses-16-01144-t002
胸腹水を認めるウェットタイプのみの臨床研究で、使用薬はGS=441524です。20例ずつの計40頭の前向き無作為化比較試験で、6週と12週治療を比較しています。
結果としては両群ともに死亡は1例ずつで、治療効果に差がなかったという論文です。

もうひとつは、論文として正式に出ているものかは不明ですが、どうぶつの総合病院での臨床試験で、明らかな中枢および眼病変のないFIP15症例をモルヌピラビル6週間のプロトコルで治療した報告です。
12例は6週間治療後6ヶ月の追跡調査で再発なし、3例は治療終了後に再発したものの同じプロトコルで再導入して12週間治療したそうです。再発例も治療終了後2例は6か月間再発なしで、1例はまだ6ヶ月経過していないものの今のところ問題なしということでした。

当院といたしましては、治療反応性や投薬の大変さや費用負担などを総合的に検討していただき、随時最新情報をお示しして最終的には飼い主様にご判断いただくようにしたいと考えております。
飼い主様が決められないなら、本稿執筆時点では12週間の内服が無難だと思います。
また、当院で使用できるのはモルヌピラビルのみです。その他の治療薬での治療をご希望の場合や、モルヌピラビルの治療反応が良くない場合は他院をご紹介いたします。