グレインフリードッグフードの危険性

最初に結論
私は獣医師として犬にグレインフリーフードを与えることには反対です。
何故なら拡張型心筋症の発症に関与している可能性が示唆されているからです。
ここまでで、「そうなんだ。じゃあやめておこう。」と思われた素直な飼い主様は後は読まなくて大丈夫です。普通に穀物が入っているフードを与えましょうね。
「なんでや!」と思われた方は以下も読んでみてください。
何でグレインフリーフードを与えたいのですか?
そもそも何でグレインフリーフードを与えたいのでしょうか?明確な目的意識がある飼い主様はいらっしゃらないのではないでしょうか。
よくある謳い文句から考えてみましょう。
1.高タンパクで良いフード!犬は雑食に近い肉食だから!
グレインフリーフードは、基本的に穀物の代わりに豆類が入っています。
また、穀物を使っているフードでも高タンパクなフードはあります。割合の問題であってグレインフリーは関係ないと思います。
2.アレルゲン回避!低アレルギーで良いフード!
食物アレルギーは何に反応するかご存じでしょうか。基本的に蛋白質に反応するのが食物アレルギーです。
そうすると「野菜や果物にだって食物アレルギーはあるじゃないか」と思う人もいらっしゃると思いますが、野菜や果物にだって蛋白質は含まれているのですよ。その食物に特有の蛋白質に過剰反応を起こすが食物アレルギーです。
ですから、当然蛋白質が豊富な肉類や乳製品の方がアレルギーの原因になりやすいです。
ただ、確かに食物アレルギーの中で小麦アレルギーの割合は13%程度あるのではないかとも言われますので無意味ではないと思います。でもそれは小麦が完全に排除されているのであれば、という話です。
食物アレルギーは微量な摂取でも症状が出てしまいます。そのフードは穀物使用のフードと製造ラインは完全に別で穀物のコンタミネーションは全くないと言えるフードなのでしょうか。そこまで厳密でなければアレルゲン回避できているとは言えません。
動物病院で使用する食物アレルギー対策用の療法食は、厳密に管理されているものを使用します。
そのグレインフリーフードが、穀物を使用されている他のフードと製造ラインが完全に独立しているなら、穀物のアレルギー回避にはなるんじゃないでしょうか。でも、そんなこと調べようがないと思いますので、食物アレルギーが疑われるなら、動物病院の獣医師とどのフードを与えるのかよく相談しましょう。グレインフリーフードではなく療法食を推奨されると思います。
3.穀物は嵩増しのため!品質が悪い!
こんなことが、書いてありますね。驚きです。何の根拠があってこういうこと言うんですかね。
穀物は食物繊維やビタミン、必須脂肪酸が摂取できる良質な栄養源です。人だって米も小麦も食べているじゃないですか。
穀物は嵩増しで、豆は嵩増しじゃないってことですか?
ちょっと何言ってるかわからないです。
4.穀物は消化の負担になる!
いやいやいや。そりゃ生ならそうでしょうよ。
ドッグフードに使用されている穀物はちゃんと加熱してあり高消化性です。穀物は消化に悪くて豆は消化にいいとでも言うのでしょうか。
穀物の方が簡単な処理で高消化性になりますが、豆類の方が難消化性繊維が含まれていて高度な処理をしないと消化が難しいことが多いようですよ。
つまりですね、グレインフリーフードが良い理由なんてないんですよ。
小麦アレルギーなら小麦が不使用の厳密に管理された療法食か、手作り食を与えるべきです。
高タンパクなフードを与えたいということであれば、穀物を不使用かどうかは関係ないです。
食物繊維が豊富かどうかも穀物不使用と関係ないです。サイリウムなどの食物繊維原料を別途加えれば良いだけです。穀物使用で食物繊維が高配合のフードはたくさんあります。
でもグレインフリーでもいいじゃないの!
害がないならいいんですよ。でも害がありそうだからやめときましょうと注意喚起しています。
実はまだ、「有害だ」とは言い切れません。そこまでのエビデンスはありません。
穀物不使用が悪そうなのか、豆の多用が悪そうなのかもはっきりしません。
しかし、グレインフリーフードを与えている群で心臓の収縮性が低いという論文などのように、グレインフリーフードと拡張型心筋症の関連を示唆する報告が増えています。
それでもグレインフリーにしたいですか?
グレインフリーフードは獣医学の進歩から生まれたものではありません。
人のグルテンフリーの流行などから派生したもので、それを何となく「自然派」「高品質」みたなものに結びつけて流行させたマーケティングの産物です。
どうして穀物不使用だと高品質なんですかね?イメージ戦略的に「穀物vs肉」みたいになってますけど、実際は「穀物vs豆」なんですよ。肉はどっちも使ってます。穀物よりも豆が自然派で高品質だと思いますか?そんなわけないですよね。
拡張型心筋症の発症と関連しているかもしれないデメリットを凌駕するメリットがあるのであれば、このようなフードを与えることに検討の余地はあると思いますが、現在の獣医学でそのようなメリットを示すエビデンスは存在しません。
食事性の拡張型心筋症になった場合に、穀物を与えればすぐに治るなら問題は少ないかもしれませんが、栄養性に徐々に進行した病気がそんなに簡単に治るとは限らないですよ。長期に変化したものは治るとしても長期間かかりますし完全に元に戻るとは限りません。
はら動物病院では、穀物を使用したドッグフードを推奨します。
グレインフリーフードは推奨できません。