猫のワクチン接種プロトコルや抗体価の解釈は難しい

わんちゃんの場合のワクチン接種の実際
わんちゃんはですね、現実的には毎年接種の方が当院でも多いです。
当院で5種ワクチン接種をご希望のわんちゃんの飼い主様には、まずは免疫力の指標となる抗体価を測定して...という提案もしておりますが、毎年接種の方が圧倒的に多いです。
何故なら証明書が必要だからですね。トリミングサロンやドッグランなどなど。
ワクチンをただ打ってあるかの証明書よりも、抗体価の証明の方がよほどちゃんとした免疫力の証明書になりますが、様々な場面で「ワクチンは接種していないのですが抗体価の証明書があって...」といちいち説明するのは面倒ですよね。
獣医学の専門家ではない一般の飼い主様が、これまた獣医学の専門家ではないトリマーさんやその他のお店の管理者の方に説明するのは大変だと思います。
ワクチン接種の証明書があった方が圧倒的に便利なんですよね。
抗体価って何?
ワクチンとは、弱毒化(生ワクチン)もしくは無毒化(不活化ワクチン。抗原性は維持)した病原体を接種して、生体に免疫力を作らせるものです。
ワクチンで獲得する免疫機構としては、抗体による液性免疫・免疫記憶したTリンパ球による細胞性免疫があります。また、免疫機構が働く場所による違いもあり、そもそも体内に入らないように鼻粘膜などで働く粘膜免疫と、体に入って来てしまった場合に働く血液中など機能する免疫とに分けられます。
つまり、ざっくり分類すると、免疫機構としての液性(抗体)と細胞性があり、働く場所として粘膜と血液があるので、2×2の4種類に大別できます。
この中で、当院のような普通の動物病院が利用できる商業ベースの検査は血液の抗体の働きを数値化する抗体価のみです。
4種類の獲得免疫のうちの1種類しか測定できないのです。
犬は難しくないの?
犬のワクチンでも、レプトスピラワクチンは血液検査で防御能を評価することはできません。診断で使用する抗体価は顕微鏡下での凝集試験で、それは防御能を反映しないとかなんとかだそうです。
しかし、コアワクチン(全ての犬に接種が推奨されているワクチン)のジステンパー、パルボウィルス、アデノウィルスに関しては、血液検査での抗体価と実際の防御能の相関が確認されており、手軽にワクチンの効果を測定できます。
抗体価が十分高値なら接種しない、低値なら接種という判断でOKです。簡単です。しかし、実際にはほとんどの飼い主様が毎年接種しますが...
猫はどうして難しいの?
猫のコアワクチンは、パルボウィルス・ヘルペスウィルス・カリシウィルスの3種です。
しかし、犬のように血液検査の抗体価が実際の防御能と相関するのはパルボウィルスだけです。
ヘルペスウィルスの防御能には細胞性免疫が重要とされており、カリシウィルスの防御能には粘膜免疫が重要とされております。いずれも研究機関であれば測定できないこともないようですが、2025年現在、商業ベースで検査できるラボはありません。
はら動物病院の猫ワクチン接種方針
猫ちゃんのワクチン接種は、注射部位肉腫という悪性腫瘍を引き起こす可能性が指摘されています。
ごく稀な発生のため、それを恐れてワクチン接種しないというのは良くないと思いますが、無駄に接種を繰り返すのもまた良くないと考えています。
このため当院では、トリミングサロンやペットホテルを頻繁に利用するなど、ヘルペス/カリシウィルスの罹患リスクが高い猫ちゃんにのみ毎年接種を推奨しています。
当院をご利用の多くの猫ちゃんは、室内飼育で他の猫ちゃんとの接触がほとんどないことが多いです。
こういった飼育環境の場合には、まず抗体価測定を推奨しています。
その結果、パルボウィルス抗体価が十分高値な場合には、ヘルペス/カリシウィルス抗体価が低値でもワクチン接種は行わないことを推奨しています。
パルボウィルスに対してのリスクも低いとは思いますが、体調不良や健康診断等で動物病院をご利用されることはありますので、パルボウィルス抗体価は維持するように推奨します。ヘルペス/カリシウィルスよりも重症化する可能性が高い感染症ですし。
まとめ
猫ちゃんのワクチン接種/ワクチン抗体価検査に関して、正しく選択するには以下の知識が必要です。
・ワクチンで防ぐことができる感染症のリスクがどのくらいあるのか
・ワクチンの副作用リスク
・ワクチンの効果
・抗体価検査結果の正しい解釈
この4点に関して、漏れなく正しい知識を有していなければ適切なワクチン接種はできません。
なんとなく毎年接種していませんか?そのワクチン接種はメリットよりもデメリットの方が大きいかもしれません。
かかりつけの獣医師としっかり相談してから予防接種を行うのかどうか慎重に検討しましょう。
千葉市緑区おゆみ野 中央区生実町エリアの愛猫家の皆さまで、適切なワクチン接種に関してしっかり相談できる動物病院をお探しでしたら、はら動物病院をご利用ください。

