初手で1日1回内服の抗生剤は使わない

当院では、生命に関わるような重症感染症以外で、1日1回投与の抗生剤を最初から使うことは基本的にありません。
もちろん例外はありますよ。抜歯を希望されない猫の歯肉口内炎にジスロマック試してみますか、とか。
でも、今思いつくのはそのくらいですかね。
何が言いたいのかというと、キノロン系抗生剤(1日1回投与で便利な薬)を初手から使うのはダメだという話です。

ブログで何かを主張したい場合でも、いつもは「当院ではこうしています」という言いまわしをしています。
でも、今回は「それはダメだ」と断定的な言い回しをしています。何故でしょうか。
お墨付きがあるからです。
農林水産省も厚生労働省もISCAID(国際伴侶動物感染症学会)もEMA(欧州医薬品庁)もWHO(世界保健機関)もみんなキノロン系抗生剤を第一選択薬にすることはよろしくないと言っています。

当院は日本の動物病院ですから、監督官庁は農林水産省です。
まずは直属の監督官庁の指導内容を確認しましょう。トップ画像の「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き」は獣医師でなくても誰でもみることができます。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/attach/pdf/240328_7-8.pdf

このP.41に動物用内服抗生剤の一覧が載っております。

★がついている抗生剤がありますね。★は何を表しているのでしょうか。表の一番上に書いてありますね。
そうです「二次選択薬」です。
フルオロキノロン系抗生剤の全てと、セフポドキシム(第三世代セフェム系抗生剤)は第二選択薬である(第一選択にしてはいけない)と書いてあります。

農林水産省さんも頑張って全方位に配慮しつつわかりやすい資料を作成していただけていると思います。ただ、一般の方が理解するのには良いかもしれませんが、臨床獣医師が使うには体系化されておらず、ちょっとわかりづらいです。
では、EMA(欧州医薬品庁)の資料を見てみましょう。
https://www.ema.europa.eu/en/documents/report/categorisation-antibiotics-european-union-answer-request-european-commission-updating-scientific-advice-impact-public-health-animal-health-use-antibiotics-animals_en.pdf
動物への抗生剤の使用に関する特別専門家グループ(AMEG)の提言、というようなものです。
EMAのAMEG分類では抗生剤を4つのカテゴリーに分けています。AIに日本語で表にしてもらいました。

フルオロキノロン系はCategory Bの制限使用です。薬剤感受性試験を行い、Category CやDの薬が無効な場合にのみ選択されるべき薬です。

他にもCategoryAやBの薬がありますが、獣医療で乱用が問題になっているのは、フルオロキノロンの内服と第三世代セフェムの注射剤です。
フルオロキノロン内服は全て1日1回でOK、第三世代セフェムのひとつであるセフォベシンの注射薬は1回の注射で2週間効果が持続します。いずれも便利だから使われがちです。でも便利だからといって第一選択にしてはいけません。

じゃあ、こんなブログを書いているんだから、はら動物病院では絶対にCategory Dから使っているんですか?と言われたらそんなことはありません。初手で第三世代セフェムの注射をすることもあります。絶対に内服できない怒る動物でどうしても抗生剤治療が必要だったら使うしかありません。
しかし、外来ベースで初手からフルオロキノロン系抗生剤の内服を出すケースは思いつきません。もちろん、肺炎や子宮蓄膿症や腎盂腎炎など、生命に関わる重症感染症では最初から使うことが多いです。でも、それは入院下で注射するような状況です。
外来ベースだと、緑膿菌感染の外耳炎などに使うことが稀にありますが、最初からは使わないです。薬剤感受性検査の結果、それしか使えないので仕方なくの使用です。

また、犬の皮膚膿皮症の第一選択の抗生剤は第一世代セフェム系抗生剤のセファレキシンです。Category Cですね。公衆衛生的観点と獣医療的観点から多少の齟齬がでるのは仕方がないと思います。
セフェム系といえば、第三世代を第一世代の完全上位互換だと誤認識している方がまれにいらっしゃるようですが、ブドウ球菌に対しては第一世代の方が効力が高いことが多いです。第三世代は桿菌への効果を高めた結果球菌への効力は低下しているのです。
球菌が検出され、薬剤感受性試験でセファレキシン(第一世代)にもセフォベシン(第三世代)にも感受性だった場合にセフォベシンを使うのは、治療学的にも公衆衛生的にも二重に間違っています。

公衆衛生のガイドラインを理解しつつ、治療学的に適切な抗生剤投与を行うことが大切です。

AIが作ってくれた表に書いてありますね。人医療で重要な抗生剤に対する耐性菌が増えると困るからです。もっと端的に言えば、薬剤耐性菌が原因で人が死んでしまうことがあるからですよ。
抗生剤を内服や注射で全身投与すれば、腸内細菌や皮膚常在細菌叢にも影響します。そこで抗生剤耐性菌が選択され増殖し、耐性菌による感染症の原因となります。
動物医療での安易な抗生剤使用が、回りまわって人医療の感染症死亡率上昇に結びつくのです。

抗菌薬の適正使用に関しては人医療だけでなく獣医療でもその必要性の周知が進んでいます。ほとんどの動物病院で適正使用を心がけていると思います。安心して動物病院をご利用いただきたいと思います。
ただ、もし、今の治療で大丈夫なのか不安だな、という飼い主様がいらっしゃいましたら、はら動物病院までお気軽にご相談ください。問題なければ問題ないで、安心して今までのかかりつけの動物病院で治療を継続することができると思います。