失神に対して一次診療動物病院でできる治療

まずは大前提として
かかりつけの動物病院でコントロールが難しいほど頻回に倒れるのであれば、二次診療施設で診てもらうべきです。
循環器科なのか神経科なのかは、かかりつけの先生の見立て次第ですが、「倒れる」といっても神経疾患の発作なのか、循環器疾患の「失神」なのかの区別は難しいです。
倒れた時の動画を撮影していただき、神経疾患が疑われる場合はMRI検査が必要になると思いますし、循環器疾患が疑われる場合はホルター心電図検査を行う必要があるかもしれません。
もし可能であれば、神経科も循環器もどちらも専門医が勤務しているような大学病院レベルの動物病院で診てもらうことが望ましいでしょう。
二次診療は遠い...
ただ、いつもの動物病院からそう遠くない場所にここで言うレベルの二次診療施設があることは少ないでしょう。
「○○動物医療センター」という名前なら良いわけではありません。MRIがあってホルター心電図検査やペースメーカー設置手術が可能で、循環器も神経も獣医専門医がいる施設なんてごくわずかです。
現実には、当院のような普段からご利用いただく一次診療動物病院でどうにか診るしかないケースも多いと思います。
一次診療でできること
今回は失神の話です。発作ではないとします。
高度な徐脈性不整脈の場合はペースメーカーを入れるしかないでしょう。これは一次診療ではどうしようもありません。
ただ、倒れる様子やその他の検査・経過から、発作ではなさそうで失神だと思うけれども、診察で診る限りでは高度な徐脈はないし、僧帽弁疾患などその他の心疾患がない/もしくは良好にコントロールできているけれども、失神してしまう、というような場合には、いくつか使用できる内服薬があります。
失神で使用する内服薬
①シロスタゾール
そもそもは抗血小板薬です。血栓予防薬ですね。ただ、獣医臨床でその目的で使われることはほぼないと思います。
副次的な作用として心拍数が上昇します。
高度な徐脈はペースメーカーを入れるしかないでしょうけれども、軽度な徐脈傾向があって、興奮時などに迷走神経緊張により倒れてしまうという場合にはこの薬でコントロールできるかもしれません。
ただ、心拍数を上昇させることが危険な心疾患がある場合には慎重な適応判断が必要です。
また、心拍数を上げる効果なので、血管抑制型の失神には効果が乏しいでしょう。
②テオフィリン
気管支拡張薬です。副次的な作用として弱い強心作用があります。このため、シロスタゾールと同様に心拍数の維持目的で使用できます。特に発咳後に失神する場合には気管支拡張薬ですし使いやすいと思います。
シロスタゾールほど明らかに心拍数が上がらないため、犬で多い僧帽弁閉鎖不全症で併用することも多く、心不全症例には注意が必要ではあるものの安全性は高いです。ただ、その分効果は限定的です。
シロスタゾールと同様に心抑制型の失神であれば効果が期待できますが、血管抑制型には効果が乏しいでしょう。
③マロピタント
制吐剤ですが鎮咳作用もある薬です。
失神に対しては、まだラットでの論文や犬への実験的な使用の報告がある程度で、この目的での用法用量は本稿執筆現在不明です。
しかし、制吐剤や鎮咳薬として一般に使用されているので、嘔吐や発咳後に失神する場合は経過を見ながら使用を継続するのが良さそうです。
④クレマスチン
第一世代抗ヒスタミン剤です。
抗ヒスタミン剤はTVCMなどで「眠くなりにくい!」ってよく言ってますよね。
第一世代抗ヒスタミン剤は眠気が生じやすかったのですが、第二世代は眠くなりにくいですよということを謳っています。
何故第一世代は眠くなりやすいのでしょうか。副作用である抗コリン作用により眠くなるのです。
神経伝達物質には、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリン、アセチルコリン、GABA、グルタミン酸などがありますが、この中のアセチルコリンの働きを阻害します。このことにより、眠気や口渇、便秘や排尿障害、眼圧上昇、動悸などが起こることがあります。
この抗コリン作用による動悸の副作用で心拍数を維持しようというのが、失神に対する作用機序です。
若い獣医師には馴染みがない薬だと思いますが、一定年齢以上の獣医師であれば、かつて皮膚の痒みによく使われた薬として記憶していると思います。
個人的には、皮膚掻痒に対しては効果も副作用もほとんど感じたことがありませんでした。安全性は高い薬だと思います。
花粉症の薬で倒れる頻度が低下するならありがたいですよね。
まとめ
再度の注意ですが、生活に影響が出るほどの失神があるのであれば、二次診療で診てもらうことが望ましいです。
一次診療では設備や技術の面から不可能な検査や治療があります。
ただ、二次診療には様々な理由から行くことができないが、何か他にできる治療があれば試したいという飼い主様で、上記の治療薬を使っていないのであれば、はら動物病院までご相談にいらしてください。

