症状と原因臓器が異なる病態
こんにちは。原です。
ここ最近で同じような犬の2症例の経験をしましたので、ブログでご報告しようと思います。
何の病気なのか予想しながらお読みください。
主な症状はこんな感じです。
症例1:数日前から尿が黄色い
症例2:嘔吐・下痢・食欲不振で他院にかかっていたが良くならない
さて、何の病気でしょうか。
症状のみから考えると...
症例1:尿が黄色い→黄疸?→肝臓・胆嚢?溶血? あたりがあやしいでしょうか。
症例2:消化器症状→消化器疾患・膵炎・アジソン? あたりを考えますでしょうか。
いやね、そりゃ大事な大事な身体検査所見を取ってから考えろって話ですよね。そこを抜くのはずるいですよね。
後から考えれば、原因からくる身体検査所見がありましたよ。でもね、なかなか後付けでないと難しい所見です。
その所見とは、「心音が小さい」です。
でもね、特に症例2とか結構大きい子なんですよ。大型犬って普通でも心音聞きづらかったりするので、それが異常なのか正常範囲なのかは正直難しいんです。
ここまで言えば、獣医療・医療関係者ならおわかりですね。そう、これです。
正解は「心タンポナーデ」です。
画像がわかりづらくてすいません。真ん中の白い部分が心臓で回りの黒いのが心膜液です。
心タンポナーデとは、心臓の心膜の直下に何らかの原因で液体が貯留してしまい、液体に圧迫されて心拍出が制限されてしまう病態のことです。
循環不全の状態になりますので、あらゆる症状が出てもおかしくありません。重度だと虚脱から死に至ります。
原因としては様々で、心臓腫瘍、心膜炎、出血傾向、特発性などいろいろな原因があります。
精査にはCT検査が必要になりますので、最後まで全部当院で検査・治療が完結できるわけではありませんが、そもそもこの病気だと気がつかないと精査も何も死んでしまうわけです。
何はともあれ心膜を刺して心膜液を抜くことが必要です。
例えば症例2は血液検査でリパーゼが高値でした。消化器症状があってリパーゼが高値。「膵炎ですね!」で膵炎治療されてそのまま改善せず、「重症膵炎で亡くなりました」で何の疑問も抱かず終わってしまうこともあり得るわけです。こわいですね。
医療業界には「後医は名医」という言葉があるそうです。後から診るお医者さんは、経過が悪いことで困っている患者さんという前提で診るわけですから、はじめから幅広く検査を行いますので有利だということです。きっと症例2の前医も、症例2が再診に行かれていれば経過が悪いことを踏まえて幅広く検査をされたのでしょうから、当院が優れているということが言いたいわけではありません。
何が言いたいかというと、こういった予想外の場所が原因のこともあるので、検査は幅広く、その分高コストになるのは仕方がないんですよ、ということです。
腹部の異常が疑われる状況でも胸部のレントゲンも撮りたいし、エコー検査も腹部だけでなく心臓もチラっとは確認したいです。胸部の異常が疑われる病態でも腹部のレントゲンくらいは撮りたいですし、血液検査する時は可能なら尿検査もしたいんです。
そうはいってもこういった症例は比較的まれですから、飼い主さまに検査とコストを天秤にかけていただいて、どこまで行うのかをご相談の上で検査・治療を行っております。ただ、事実としてこういうことがあるので、私からご提案するのはどうしても幅広くそれなりのコストがかかる検査になってしまいます。
現代のかかりつけ獣医師としては、エコー検査が非常に大切な検査になっていると思います、ヒトのようにCTが気軽に撮影できれば重要性は低いのかもしれませんが、動物のCT撮影には全身麻酔が必要なので敷居が高く、そもそもCTがあって実際に稼働している動物病院はそれほど多くありません。
当院のエコーARIETTA65は中位機種くらいのもので、高額な上位機種には及ばない部分もありますが、かかりつけの動物病院が使用するエコーとしては十分な性能を有しています。今後も無麻酔で臓器の内部まで検査ができるエコー検査の手技を高めるために研鑽してまいります。
...と、いうことで「Atlas of small animal ultrasonography」を発注しちゃいました。約3万円。お高い...英語だし。また円高にならないかしら。金利は低いままで。
そんな当院をかかりつけ動物病院としてご利用いただける飼い主様は、是非健康診断を受けてください!
無症状の動物の疾患の早期発見・早期治療を目指すのはもちろん大前提なのですが、副次的には私の勉強・練習になり、皆さまの大切なペットが病気の時の診断精度が高まって更に安心です。
(※猫ちゃんのエコー検査は健診セットには含まれておりませんが、飼い主様と一緒に検査であれば承りますのでご相談ください。)
今年は健康診断の検査から、脾臓腫瘍→当院で摘出、子宮水腫→当院で摘出(スタッフの愛犬)といった例も出ています。
また、当院の検査報告書はかなり良い感じなのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。動物のお顔の写真つき表紙は当然のこととして、レントゲン写真やエコー写真まで貼ってある報告書はあまりないと思います。以下のリンクからご確認ください。
是非ご利用ください。