犬と猫の便秘 内科治療 2025

タイトルに2025とつけましたが、今年発表された最新情報というわけではありません。
しかし、人ではエビデンスレベルが高く、便秘に汎用されている薬でも動物での使用実績がほとんどない薬があります。
一部の先進的な先生が発表をされているものを見つけましたので、当院からも情報発信したいと思います。
犬で便秘を起こす代表的な疾患は会陰ヘルニアです。猫は巨大結腸症です。
いずれも外科手術も適応される疾患ですが、手術にはリスクもあり、また高齢でその他の慢性疾患を持っている状態でこれらの病気になってしまうと、全身麻酔のリスクが高く手術は難しいということもあると思います。
そのような場合には、食事管理や下剤など様々な内科的治療を行うわけですが、既存の治療では上手くいかないこともあります。
そのような場合に、人で使用されている便秘薬が犬猫にも有効なことがあるようですので、愛犬/愛猫の便秘でお困りの飼い主さまは、はら動物病院への受診をご検討ください。
以下便秘治療に関しての既存治療と、新薬(動物医療にとっては)の概要です。
①食事管理
自力排便が可能な場合は高繊維食 もしくは繊維サプリメント(サイリウム)を摂ることが推奨されています。
繊維含有量の多い消化器疾患用の療法食を食べてくれるのであれば、フードを変更しましょう。
食べてくれない場合はサイリウムをフードと共に与えると良いでしょう。サイリウムを与える量は動物病院の獣医師と相談しながら調整しましょう。
高繊維食は下痢の時にも使いますが、便をほどほどの硬さに保ってくれる作用と、腸内の善玉菌を増やしてくれる作用が期待できます。しかし、便の量が増えてしまうので、自力排便が不可能なほどの重度な便秘の場合は禁忌となります。
②水分摂取量を増やす
繊維+水分で便が柔らかくなってくれますので、水分をしっかり摂取することが必要です。
しかし、動物に「水を飲んで!」と話しかけたところで飲んではくれませんので、工夫が必要です。
水分摂取を増やすためには、以下のような工夫が考えられます。
・ウェットフードを与える/ドライフードに水をかける
・水飲みを複数個所設置する。給水器やお皿、場合によっては人のマグカップなど動物の興味をひくように工夫する
・ウォーターファウンテンの利用
・ペットスウェットやハイドロパウダー、ハイドラケアなどの犬猫用経口補水液を与える
いろいろ工夫して水分摂取量を増やすようにしましょう。
③プロバイオティクス
猫の巨大結腸症にはプロバイオティクスミックスのSLAB51が有効という論文が出ています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29065705/
SLAB51には、腸を動かすカハール間質細胞の増加や結腸炎の低減などにより便秘を改善する効果がありますので、積極的に使用すべきです。
プロバイオティクスは玉石混合で多数の製品がありますが、エビデンスのある製剤を使用すべきです。中にはほとんど意味がないものもありますので注意が必要です。
SLAB51配合のプロバイオティクス製剤は日本ではサイボミックスです。
猫ちゃんの慢性便秘~巨大結腸症に関しては、サイボミックスの内服によりかなりの割合で改善が期待できます。
文献上の投与量はメーカー推奨量よりも多いことに注意が必要です。
サイボミックスは動物病院からの販売、もしくは登録時に動物病院の診察券が必要なwebサイトanimatoのみで購入が可能です。
当院では、遠方の飼い主様にはオンライン相談を受けていただくことで診察券を発行しています。
④下剤
下剤には浸透圧性下剤と刺激性下剤があります。
刺激性下剤は長期使用で薬剤耐性や重篤な副作用も知られていますので、浸透圧性下剤を使用すべきです。
動物医療では、ラクツロースかモビコールの使用が一般的です。
⑤蠕動運動促進剤
腸の運動を促進して便の排泄を促します。
日本ではモサプリドが使用されることがほとんどです。
その他には一部の抗生剤がこの目的のために使用されることがありますが、耐性菌の出現を招く可能性があるため、ほとんど使われないと思います。
ここまでが動物医療で一般的な薬です。
以下は人の便秘治療薬としては一般的ですが、動物医療での使用実績に乏しい薬です。
しかし、一部の症例報告は存在しますし、作用機序から考えてもそれほど危険性が高いとも思えないので、外科不適応の便秘で苦しむ犬猫に使ってみる価値はあるのではないかと思います。
⑥腸上皮機能変容薬
人の便秘では、ルビプロストンやリナクロチドという薬が使われています。
腸の上皮細胞に作用して、水分分泌の亢進と蠕動運動の促進を働きかけます。
リナクロチドは動物医療でも症例報告があるようです。
⑦胆汁酸トランスポーター阻害薬
食事刺激により胆嚢が収縮して十二指腸に胆汁が分泌されます。胆汁と食事が混ざりあって小腸で大部分が吸収されます。
この胆汁が大腸に流入すると粘膜上皮に作用して蠕動運動を亢進することが知られています。
そこで、胆汁の吸収を一部阻害して大腸に流入する胆汁量を増やすのがエロビキシバットというお薬です。
このお薬も動物での症例報告があるようです。
逆に、慢性下痢の原因として胆汁性下痢を疑う場合は、胆汁吸着薬としてコレスチラミンやコレスチミドを使用することがあります。
便秘が酷くて食欲が安定しない、定期的に動物病院での摘便が必要でかわいそう、でも様々な理由で外科手術は難しい、という場合には、⑥⑦のお薬を試してみる価値があるのではないかと思います。
愛犬/愛猫の便秘でお困りの飼い主様は、はら動物病院の受診をご検討ください。