てんかんの治療

ACVIM(米国獣医内科学会)は、様々なコンセンサスステートメントを発表してくれています。
コンセンサスステートメントとは、直訳すると「合意声明」ということになるのですが、治療のガイドラインみたいなものです。
その分野の専門の先生が集まって、各治療法にエビデンスレベルをつけたり、推奨される診断・治療法をまとめてくれています。
トップ画像は2023年年11月に発表された最新のてんかん重積への対処法です。(本稿執筆は2023年12月)
当院では、これまではIVETF(国際獣医てんかん特別委員会)メンバーの専門医が2020年に講演された内容を元に、重積を含めたてんかんの治療を行ってまいりましたが、その内容と異なる点があります。

これを知ったからといって、当院で難治性てんかん重積の治療が万全にできるかというと、残念ながら不可能な場合もあります。私一人で24時間管理はできないこと、挿管したら100%酸素しか使えずルームエアーで人工呼吸管理はできないこと(100%酸素での長時間管理は肺損傷を起こします)、MRIがない、脳波計がないなどの理由から、超難治性重積は当院では対処不可能です。
ただ、設備が整っていれば助かるのかというと、そこまでの状態になった症例の救命率は低いです。

じゃあこれを学ぶ意味はないのかというと、もちろんそんなことはなく、麻酔薬を使う以前までの投薬アプローチが変わっています。
今までSTEP3とされていた治療が1st LINE治療になっていたり、薬の使い方も逐次投入な感じから、複数薬を同時に投与しようというような違いがあり、今までのガイドラインよりも積極的に治療を行うことができると考えています。

ただ、これは獣医師向けの情報なので、飼い主様には関係ないというか見えない部分の話ですね。
てんかんに関する飼い主様向け情報としては、特別新しい情報ではありませんが、特に犬において(おそらく猫においても)ご自宅で発作時に使っていただく緊急薬は、座薬よりも点鼻薬が有効だ、ということでしょうか。愛犬・愛猫にてんかんの持病がある飼い主さんは知っておいた方が良いでしょう。
点鼻薬の一部は嗅神経や三叉神経を介して直接脳に効果を発揮するため、血液脳関門でブロックされにくいと言われています。
古くは座薬が使われていましたが、現在では座薬の効果発現は遅すぎると考えられおり、当院で発作の緊急薬として処方することは基本的にありません。

当院は2月に開業したばかりですが、ありがたいことに3症例以上の特発性てんかんの症例の治療をお任せいただております。
特発性てんかんに限りませんが、お任せいただいている疾病の急性増悪の際にも最新のエビデンスに基づく適切な治療を行えるよう、今後も情報の更新に努めてまいります。