老犬の夜鳴き AKTIVAIT ベルソムラ

わんちゃんも歳を取ると認知機能不全症候群、いわゆる認知症になることがあります。
視力の消失や、歩行が上手くできなくなることで角や隙間で行き詰まるような場合には、円形サークルを導入するなど生活空間を制限してあげましょう。滑り防止グッズなどを使用するのも良いですよね。食事が自力で摂れなくなってしまう場合には飼い主が食べさせてあげる必要も出てくるかと思います。
診療する側の獣医師としては、この辺の問題で行き詰まることは少ないです。介護する飼い主さんの負担は大きいですが、長年連れ添った愛犬の最期の時間のお世話は、できる限りのことをしてあげたいのが人情で、負担よりも愛情が勝り、頑張ってくださる飼い主さまが多いです。

しかし、問題なのは夜鳴きです。

これは大変つらいです。愛犬がつらそうにも聞こえる大きな声で昼夜問わず鳴き続けます。飼い主さんが眠れなくなりますし、ご近所からの苦情も気になります。長年連れ添った愛犬をできるだけ穏やかな形で看取ってあげたい。でもいつ終わるともわからない過剰咆哮が続きます。次第に飼い主さまが精神的に追い込まれていきます。

そこで動物病院でご提案できることは
①環境整備
②お預かり
③投薬
です。

①環境整備
実際には、飼い主様が疲れ切っている状態でできることは限られてしまいますが、可能であれば昼間になるべく活動させて疲れさせ、夜眠ってくれるようにすることが大切です。
また、クッションも数種類試すなどしてあげましょう。
それから、物理的な防音ということも環境整備のひとつになるでしょう。ペット用の防音ケージも販売されているので、夜だけでも防音室に入れるなども検討しましょう。
②お預かり
動物病院でペットホテルもしくは入院扱いでお預かりします。当院では夜間は無人になってしまいますが、動物病院であれば食事や排せつの介助、汚れてしまった場合のシャンプーなども可能です。
数日でも離れることで飼い主様には安眠していただき、多少でも精神的に回復していただくことができると思います。
③投薬
3-1.サプリメント AKTIVAIT
認知症には脳への酸化ストレスによるダメージが関わっているそうです。
若い時は自己の抗酸化作用により脳組織が守られていますが、老齢になると抗酸化作用が弱くなってしまうそうです。
このため、抗酸化物質を積極的に摂る必要があります。
まずは抗酸化サプリメントの摂取を行うだけでも症状が改善するかもしれないですし、サプリメントと併用した方が内服薬の効果も出やすくなります。AKTIVAITはサプリメントではありますが2006年に有効性が論文発表されており、行動学専門獣医師が推奨しているサプリメントです。
3-2.痛み止め
もちろん抗うつ剤・鎮静剤・睡眠剤ということもありますが、過剰咆哮の原因は認知症だけとは限りません。老齢犬ですから、足腰が痛いということも考えられます。これまでは、老齢犬に安心して長期に使用できる鎮痛剤がありませんでしたが、昨年国内で認可された「リブレラ」という注射薬は、神経成長因子を阻害することで痛みを抑える抗体医薬品で、代謝を肝臓や腎臓の機能に依存しないとされている安全性の高い薬です。試しに打ってみるということも選択肢になると思います。試験的に使用する場合は1か月おきに2回の投与をおすすめします。2回投与して効果判定しましょう。
3-3.症状全般への治療薬
国内で使われる薬の代表としてはセレギリンではないでしょうか。
パーキンソン病治療薬で、脳内のセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを増やす効果があります。
しかし、多くの薬が併用禁忌や併用注意となるため、当院では使用していません。
3-4.抗うつ剤
脳内のセロトニンの量を増加させることで、抗不安・鎮静作用を発揮します。
当院ではトラゾドンを使用しています。同効他剤と異なり、せん妄を誘発しないと言われています。副作用として眠気があるので動物の夜鳴きにはちょうど良い薬です。
3-5.抗精神病薬
抗うつ薬で効果が乏しい場合に併用することが多いです。副作用として低血圧があるので第一選択としては使用しません。
クロルプロマジンを使用することが多いですが、2024年1月現在はメーカー欠品で手に入りません。
3-6.睡眠薬
2014年から国内販売されているベルソムラ錠(スボレキサント)というヒト用の睡眠薬があります。
これは、オレキシンという覚醒状態を維持する神経伝達物質と競合することで眠気が強まるお薬です。
このお薬の安全性試験のデータとして、犬への1および3mg/kgの投与で覚醒時間の減少、睡眠時間の増加を認めたという記載があります。
まだ動物病院で広く使用されているとは言えない薬で、実際に認知症での夜鳴きにどの程度効果があるのかは不透明ですが、当院で処方した実際の症例でも効果が認められております。

行動学の専門の先生のお話をお伺いすると、詳細な病歴や生活環境の聴取や痛みの原因となる疾患がないかの検査などをしっかり行い、薬物治療する場合も低用量から反応を確認しながら...というのが正しいのだと思います。
しかし、実際の動物病院の現場では、超高齢のわんちゃんに種々の検査をご希望される飼い主様はほとんどいらっしゃらず、副作用は仕方がないので、とにかく眠ってほしいという願いを伺うことが多いです。

夜鳴きでお困りの飼い主様で、AKITIVAITやベルソムラを試してみたいというご希望がございましたら、はら動物病院までご相談ください。
サプリメントだけであれば、オンライン相談でも販売が可能です。
https://x.gd/mLra2
2024年7月現在は初診でのオンライン診療は法令違反のため(動物用)医薬品の処方はできません。しかし一度直接診察を受けていただければ、その後はオンライン再診やお電話で様子を伺うことで、一定期間は継続処方が可能です。