猫の慢性腎臓病 最近のトピック

国内でも海外でも、猫の腎性貧血治療薬の新薬が登場しています。

腎臓は尿から老廃物を排泄するだけでなく、造血作用にも関わっています。
腎臓から造血ホルモンであるエリスロポエチンが分泌されなくなると貧血になってしまいます。
腎性貧血はエリスロポエチン不足だけが原因とは限らず、慢性炎症や骨髄の繊維化なども関与している可能性があるため、エリスロポエチンを投与しさえすれば改善するとは言い切れませんが、腎性貧血による症状が出ていると疑われる時にはエリスロポエチン製剤を使用することが多いです。
腎臓病末期の骨髄繊維症の状態では全ての貧血治療が無効ですが、骨髄に造血能力が残っていればお薬で貧血を改善できる可能性があります。

その昔は「エスポー」や「エポジン」という製剤名の人の遺伝子組み換えエリスロポエチンを1日おきに皮下注射していました。飼い主様の通院負担が大変だったと思います。
その後、ダルベポエチンという半減期が長い人遺伝子組み換えエリスロポエチンが使用できるようになり、これは週1回の投与で良くなりました。
ただ、これらの薬剤はヒトの薬であり、猫ちゃんにとっては異種蛋白です。免疫誘導により赤血球が破壊されてしまい、より貧血が悪化するリスクがありました。

そこで、昨年発売されたのが「エポベット」です。
猫には猫のエリスロポエチンをというものです。
これはさらに投与間隔が伸びて2週間に1回の投与で良いそうです。更に、奏効率もダルベポエチンでは56%、エポベットは84.2%という報告があります。
エポベットはダルベポエチンよりも高額ですが、接種頻度が少なくて済むことと有効性の差があるとされていることから、今後はエポベットが主流になっていくものと思われます。

そしてトップ写真右側は国内販売はまだない海外薬の「VARENZIN-CA1」です。有効成分はモリデュスタットです。
これは、エリスロポエチンを産生するのに必要な酵素が分解されるのを阻害する薬です。ちょっと何言っているのかわからないかもしれませんが、結果エリスロポエチンが増えます。
内服薬であるというのが利点でもあり欠点でもあると思います。猫ちゃんは内服を嫌がる子が多いので、注射の方が良いような気もします。造血剤は、血液が増える分高血圧のリスクがあるので、内服でも適切な頻度で通院は必要です。
エリスロポエチン製剤が無効な場合に試してみる価値はあるかもしれません。結局はエリスロポエチンを増やして効果を出すものなので、機序を考えるとエポベットが無効な場合にVARENZINが有効というのはあまりないかもしれませんが。
動物薬での国内販売はまだありませんが、人体薬のマスーレッドがありますので現時点でも動物病院で取り扱えないこともありません。

貧血の治療に鉄剤を使用するかどうかは難しいところで、血清鉄などの血液検査での鉄代謝検査は体内の鉄総量を反映しないため、検査の意義は低いとされています。
鉄剤を過剰に投与しつづけるのは副作用の心配がありますが、よほど過量でないと問題は生じないと考えられるため、当院ではエポベット注射の初回には鉄製剤を注射しています。内服よりも注射の方が安定して吸収されると考えています。その後は貧血の経過次第で検討しますが、もっとも高頻度に投与(注射)する場合でも月に1回程度としています。これは、あくまでも当院がそうしているというだけで、それが絶対正しいわけではなく、経口鉄剤を使用されている動物病院も多いと思います。ある程度の食欲が維持できているのであれば鉄剤は補助的なものでしかなく、どの方法でも大差ないと思います。

あとは、最近の話というわけでもありませんが、リン吸着剤の選択でしょうか。
リン吸着剤で最も汎用性が高いのは炭酸ランタンだと思います。動物用製剤はありませんが人体用医薬品なので、ペット保険に入られているのであれば保険適応になります。そして副作用がほとんどありません。
その他の薬剤では、最もリン吸着効果が優れているのは水酸化アルミニウムではないか、とお話されていた専門医もいらっしゃいます。炭酸ランタンで効果が今一つであれば水酸化アルミニウムも選択肢になりそうです。ヒトではアルミニウムの神経毒性が問題になることがあるそうですが、犬猫では今のところその問題は報告されていないようです。
また、腎臓病に伴うアシドーシスが疑われる状態の場合にはクエン酸鉄製剤をお勧めしています。ヒト医薬品のクエン酸第二鉄製剤は非常に高額なので、基本的には動物用サプリメントを使用しています。

その他当院では、その子の腎臓病のステージや高血圧/蛋白尿の有無などに合わせて、腎臓病用療法食・皮下補液・テルミサルタン・アムロジピン・ラプロス・アミンアバスト・サイボミックスなどの食事/薬/サプリメントを組み合わせて腎臓病の治療を行っています。
慢性腎臓病は残念ながら治らない病気です。早期に発見して病気の進行を少しでも遅らせるように取り組むことが大切です。

愛猫が腎臓病で、ここまでこの記事で挙げたようなお薬を使用しておらず、詳しい話が知りたいという飼い主様は、はら動物病院までご相談にいらしてください。