発作と失神の鑑別

他院に通院しているが、1-2週間ごとに発作が起きてしまい改善しない、というわんちゃんがいらっしゃいました。
詳細な診断まではできておりませんが、当院での治療で症状は改善したので、この話題を書いてみます。

突然の意識障害で倒れてしまう場合に発作と失神の鑑別が必要になることがあります。
発作には、意識障害を伴わない、てんかんの焦点性発作もありますが、今回の話題は突然倒れてしまう場合の原因の鑑別についてです。
ほとんどの場合には、てんかん(特発性/症候性)発作なのか、心原性発作なのかで悩むことになります。
細かいことを言いだすと、虚脱は別概念だとか、低カルシウム血症は?とか低血糖は?とか神経調節性失神は?など突っ込みどころが多数ありますが、このブログは獣医師向けセミナーではありませんので、今回は、てんかん なのか心原性なのか、という話題に絞ります。

一般に、心原性の場合は発咳や運動時などの興奮時に生じやすく、ふわっと倒れてすぐ元通り、というのが典型像です。
これに対しててんかん発作は安静時に出ることが多く、強直や痙攣を伴うことが多いです。意識が戻ったあともふらつきが残ることが多く、回復後すぐに飲水や摂食することも多いです。
ただ、これは典型像で、そういうことが「多い」というだけです。心原性失神でも強直や痙攣が出ることはあります。なので鑑別が難しいのです。

今回当院にご相談いただいた症例は、循環器の獣医専門医の診察を受けて不整脈の治療薬を内服している症例でした。不整脈の治療は上手く行っていると言われていて、抗てんかん薬も処方されているが、発作が続いていてお困りでした。
当院で行ったことは、よく使われる抗てんかん薬をもう一剤追加処方しただけで、特別な治療では全くありませんが、内服開始後は1か月間一度も発作が出なかったそうで、飼い主さまに喜んでいただけました。
今回の症例は失神の原因に成り得る心臓病が間違いなくあるわけなので悩ましいところでしたが、抗てんかん薬が著効していますので、結果的にはてんかん発作だった、ということになります。
ただ、てんかん発作には、一般的なてんかんのイメージの「特発性てんかん」と、脳に明らかな異常(脳腫瘍や脳炎)があっての発作である症候性てんかんの2種類があり、特に高齢発症の発作の場合は、MRI検査や脳脊髄液の検査を行って器質的な異常がないかどうかの確認が推奨されます。当院にはMRIはありませんので、もろもろの状況が許す場合はMRIのある施設をご紹介しています。

循環器の専門外来日があるような大きな動物病院で、専門の獣医師が行うのはご自身の専門に関わる部分だけです。動物の全体の評価は担当獣医師が責任を持って診察を行う必要があります。ただ、私も獣医師が数多く在籍する動物病院に勤務していたことがありますが、担当医制でない場合、私自身は余計な治療をしないように消極的になりがちでした。状態が良くなくても、危機的でなければ余計なことをしないでおこう、という思考になってしまうことが多かったように思います。
担当医制は担当医制で、最初にたまたま当たった獣医師が担当というのもどうなんだろうというところもありました。飼い主さんから担当を変えてほしいというのは勇気がいりますよね。指名できる場合でも人気の先生の予約はなかなか取れなかったり...
当院の獣医師は今のところ私のみですので、試しに受診してみて私が気に入らなければ、もう行かなければいいだけですのでお気軽にお試し受診をご検討ください。

当院は規模や外来数の割には、特発性てんかんの症例が多く、中には国内薬だけではコントロールが難しい症例もあり、輸入薬のPexionも置いています。
専門医をご紹介するケースもありますが、発作や失神症状でお困りの飼い主様がいらっしゃいましたら、はら動物病院の受診をご検討ください。