犬の高脂血症

今回はわんちゃんの高脂血症のお話です。

秋~冬は動物病院では健康診断の季節です。
狂犬病予防接種やフィラリア検査でご来院される方が減って外来数が少ない時期なので、健康診断をおすすめしています。
血液検査・尿検査・画像検査等を行って、わりと健康な若い子でもひっかることが多いのは高脂血症ではないでしょうか。

動物医療では、脂質の血液検査項目は一般的には総コレステロール値と中性脂肪値を測定します。
人と同様にHDL LDLなどの分画測定を行う検査もありますが、広く実施されている一般的な検査とまでは言えないと思います。

高脂血症は、食後であったり、糖尿病や膵炎、タンパク漏出性腎症など、問診や症状・その他の検査値からすぐにわかる病気が原因であることもありますが、あまり明確な症状を示さない疾患が原疾患であることもあります。
まずは原因疾患がないかどうかしっかり調べることが必要だと思います。
甲状腺機能低下症はわかりにくい病気の筆頭です。他には副腎皮質機能亢進症にも注意が必要です。
明らかな原因疾患が見つからない場合は、原発性(特発性)高脂血症ということになります。犬の場合、人ほど問題視されないことが多いですが、治療を行うこともあります。

まずは高コレステロール血症について検討してみましょう。
人では、高コレステロール血症からの動脈硬化により、脳出血や心筋梗塞が生じることが多いですが、犬ではこれらの病気は極めて稀です。
この理由は明確ではありませんが、主に2点の要因が考えられています。
①寿命
犬の寿命は小型犬でも概ね15歳前後で、どんなに長くても20年くらいです。動脈硬化が生じる前に寿命を迎えてしまうというのがまず一つの理由として考えられています。
②HDLとLDLコレステロールの割合
HDLコレステロールが善玉。LDLが悪玉と言われています。
HDLは主にコレステロールを回収する側で、LDLはコレステロールを運ぶ側だからです。
人は、善玉はHDLが約66%、悪玉のLDLが約33%の割合と言われています。犬はこの割合が全くの反対で善玉のHDLが66%、悪玉のLDLが33%と言われています。
この違いにより、動脈硬化が起きにくいのではないかとも言われています。

犬では動脈硬化性疾患がほとんどないため、高コレステロール血症の病的意義はよくわからない点が多いです。しかし、肝胆道系の異常を伴う場合や、著しい高値の場合は治療を検討します。
胆汁はコレステロールを原料に肝臓で生成されるため、コレステロールが高値で胆嚢に流動性の低い胆泥貯留を認めるなどの画像異常を伴う場合は、治療をおすすめしています。

次に中性脂肪の高値に関してです。
こちらの方が高脂血症としてイメージしやすいと思います。
脂肪肝や膵炎、脂肪塞栓による蛋白尿、などの問題を生じることがあります。また、高中性脂肪血症は尿路結石(シュウ酸カルシウム結石)との関連が示唆されています。一定以上の高値や併発疾患を伴う場合は犬でも問題視されます。


最後に、原発性高脂血症の治療を考えてみましょう。
高脂血症の治療は、中性脂肪の高値なのかコレステロールの高値なのかでも異なる部分はありますが、以下のような治療を行います。
①低脂肪食に変える
正常体型の場合は低脂肪食(消化器サポート低脂肪、EN low fat、i/d low fat、ダイジェストエイドなど)、肥満体型の場合は低脂肪でかつ低カロリーなフード(スリムサポート、ウェイトリダクション、満腹感サポートなど)に切り替えます。
②オメガ3脂肪酸の内服
オメガ脂肪酸の内服を3か月試します。一般的な動物用サプリメントでは内服量が足りないことがほとんどです。医薬品のオメガ3脂肪酸製剤(ロトリガやそのジェネリック)を使用することが多いです。
③食物繊維サプリメントを与える
サイリウムを食事と一緒に与えてもらうことがあります。胆汁の生成を促してコレステロールの吸収を抑制することが期待できます。
④ウルソデオキシコール酸
ヒトでは腸からのコレステロールの吸収を抑制する作用が認められています。
⑤ベザフィブラート
犬では最もエビデンスが豊富な脂質代謝改善薬です。主に中性脂肪を下げますが、コレステロール値も多少改善が期待できると言われています。
⑥スタチン系脂質代謝改善薬
高コレステロール血症に対してプラバスタチンナトリウムなどを使用することがあります。
⑦エゼチミブ
小腸でのコレステロール吸収を抑制します。

これらの治療を必要性や飼い主様のご希望に応じて、相談しながらすすめます。
愛犬に高脂血症はあるみたいだけれども、どうすれば良いかわからないので困っているというような飼い主様がいらっしゃいましたら、はら動物病院までご相談ください。