皮膚や耳の痒みが何故治らないのか

現在2025年6月です。暑いですね。
愛犬の皮膚や耳の痒みや赤み、臭いでお困りではないですか?
私なら治せます!...と言えたらいいのですが、治らないと思われます。スーパードクターに診てもらってもたぶん治らないです。何故なのか。
ちなみに、ここでいう「治る」とは、症状が全くなく一切の薬物投与を必要としない状態のことを言っています。
慢性的な皮膚炎/外耳炎は、完治を目指すものではなく、良い状態を維持することが目標なんです。
今回は、はら動物病院での慢性皮膚炎/外耳炎の治療イメージを解説いたします。
愛犬の皮膚炎や外耳炎の原因は何?
根本的な原因は、犬アトピー性皮膚炎を基礎疾患として持っていることがほとんどだと言われています。
アレルギー性疾患ですね。
人でも多いですよね。アトピー性皮膚炎。その他のアレルギー性疾患と言えばあとは花粉症でしょうか。
花粉症治りますか?
治らないですよね。2025年の最新医療をもってしても治らない。
アレルギー疾患って治らないんですよ。人医療で治らないんですから動物医療で治るわけがないのです。
治らないなら治療しても仕方がない?
花粉症でも薬を使わず鼻水が出っぱなしでも目がかゆくても我慢して過ごされている飼い主さんなら、そう考えても仕方がないかもしれません。
でも、普通なら花粉症は治らないのに皆さん治療するでしょ。対症療法しますよね。春先は抗ヒスタミン剤のCMがいつも流れていましたよね。薬飲んだ方が楽になるじゃないですか。
わんちゃんだって同じです。(猫ちゃんにも猫アトピー症候群というのがあるのですが、本稿は犬の話をします。)
治療した方がいいのです。でも治らないのです。もやもやしますよね。実際問題どうしたら良いのかよくわからなくなりますよね。
ですから、治療するには目標設定が大切です。
完治はしなくても、目標達成を目指すのです。実際の目標設定は、わんちゃんの状態や飼い主さんがどれくらい手間とコスト負担を許容できるのかなどによって、個別に変わりますし、同じ子でも状態によって変わります。
しかし、学術的にコンセンサスのある目標設定が人医療にはあります。それがそのまま獣医療にもあてはまると思います。
アトピー性皮膚炎の治療目標とは
人医療の、日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」によりますと、治療の目標は以下のように記載されています。
治療の最終目標(ゴール)は,症状がないか,あっても軽微で,日常生活に支障がなく,薬物療法もあまり必要としない状態に到達し,それを維持することである.また,このレベルに到達しない場合でも,症状が軽微ないし軽度で,日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標とする.
つまりですね、「軽微な症状があって多少の薬物療法を必要とする状態の維持」が最終目標なのです。
もう少しかみ砕くとですね、
「たまに掻いたり、多少の赤みがあっても、わんちゃんの日常生活に支障をきたすような状況でなく、副作用リスクが低い治療を継続して良い状態を維持すること」
これが治療目標だと思うんですよ。
「突然アトピーの話されても、うちの子耳だけだから...」と思いました?
耳だけに症状が出る場合もあるのですよ。さすがに明らかに片耳だけだったらアレルギー性ではないと思いますが、両耳症状が出ているのであれば、アトピー外耳炎と言われる状況もあるのです。
さて、ではこの目標を達成するためにはどうしたら良いでしょうか。
慢性皮膚炎/外耳炎の世界標準治療 プロアクティブ療法
もう一度トップ画像をみてください。

人の場合の治療は、基本的に外用薬だと思います。ステロイドよりもタクロリムスが使われることが多くなっているのですかね。うちの子供も皮膚科で処方されていました。
動物の場合、外用薬は舐めてしまうことが問題になります。なめると余計に皮膚が荒れます。タクロリムスは刺激性があるので、動物医療で皮膚炎に使われる頻度はまだ少ないと思います。
動物の場合はステロイド外用薬を用いますが、外用薬は補助的な位置づけで主に内服薬が使われます。
当院では、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、オクラシチニブ、シクロスポリンなどを使用しています。
この図の治療は、投与頻度や強度のイメージです。水色塗りつぶしの横長長方形は毎日何かしらの投薬をしている状態です。
細い水色線は1日おきとか、週2回とか頻度を減らすなどして強度を減らした投薬をイメージしています。
リアクティブ療法は、症状が出たら毎日投薬、良くなったら終了を繰り返す治療です。それに対してプロアクティブ療法は症状が改善しても低頻度での投薬を続ける(または副作用の少ない薬に切り替える)治療です。
リアクティブ療法では、再燃が早く副作用の強い薬の投与量も多くなりがちであり、プロアクティブ療法は再燃までの期間が伸び、再燃したとしても軽度で済み、強い薬の投与が少ないので副作用も低減されます。
特に外耳炎の場合は、外用薬がメインとなりますので人のアトピー性皮膚炎と近いイメージになります。
外耳炎を繰り返す子は、状態が良い時でも週に1~2回点耳薬を使用することで、症状の再燃を遅らせ、かつ再燃時の症状を軽度にすることが期待できます。
全身の皮膚炎の場合には、内服薬を使用するので、炎症が強い時にはステロイド剤を使用し、維持期にはオクラシチニブを使うことが多いです。
どの薬にどういう特徴があって、どういう目的で投薬するのかを考えた上で処方します。
まとめ
実際はこんなに単純化はできません。
1か月程度の痒み止め効果が期待できるロキベトマブという注射薬を使うこともあります。
また、治療薬はもちろん大切なのですが、シャンプーや保湿剤、耳道清浄液等をどのくらいの頻度でどの製剤を用いるのか、食事はどうするのか、サプリメントは?など、日常ケアも大切です。飼い主様が無理なく続けられるケアを継続することが大切です。
人だって毎日シャワーや入浴をしてその後保湿剤をつけますよね。日常ケアを行わずに薬だけ塗っても皮膚炎は良くなりません。動物だって同じです。
ただ、今回最もお伝えしたいことは、「再発を繰り返す皮膚炎/外耳炎は、継続治療=プロアクティブ療法が大切です」ということです!
愛犬の皮膚炎/外耳炎で、「薬もらうと良くはなるんだけどすぐ再発するし、このままでいいのかな...」とお悩みの飼い主さまは、千葉市緑区 中央区の鎌取 学園前 おゆみ野エリアの はら動物病院までご相談にいらしてください。