犬の胆嚢粘液嚢腫の内科/外科的治療

当院での胆嚢切除症例はこれで4例目です。
平均すると年1件+αというとことでしょうか。
別件で他院にてCT撮影していただいて偶発的に見つかった1例を除き、3例は有症状(食欲廃絶/嘔吐/黄疸)での手術でした。
これまでのところ周術期の死亡はありませんが、当院での手術例は有症状ではあるものの胆嚢破裂例はいまのところないからかもしれません。破裂している症例の手術の成功率は一般に低くなるとされており、破裂しているかどうか術前に検査で判定することは難しいとされています。
本来は二次診療施設でまずはCT撮影を行い、肝管や肝内血管の走行を確認してから手術を行うことが理想的です。
当院でも二次診療施設をご提案はしておりますが、黄疸してぐったりしている子が目の前にいる状態なので、大きな動物病院で、初めましての獣医師にまた一から説明して検査を受けて...ということに抵抗がある飼い主様も多いようで、「ここでできる限りの治療をやってください。」となっちゃいますよね。まぁそうですよね。

胆嚢粘液嚢腫は基本的に犬の病気で、主にムチンを主成分とする粘液が過剰に蓄積することが特徴で、胆嚢破裂や胆管閉塞を起こす可能性がある疾患です。
猫でも症例報告はありますが、世界で数例のレベルです。

胆汁は肝臓で生成され、胆嚢で濃縮貯蔵され、摂食刺激で十二指腸に分泌されて食べ物と混ざり消化を助けます。
消化を助ける液体ですから、貯蔵する胆嚢は自己消化されないように胆嚢壁にバリアを張ります。そのバリアがムチンです。
このムチンの排泄低下(胆嚢の運動性低下)や粘度調整の異常、場合によっては感染や炎症、胆汁の組成の問題など複合的な要素により、胆嚢内が粘度の高いムチンに占拠され、胆嚢壁の虚血や壊死などによって胆嚢壁が裂けて胆汁が漏れたり(胆嚢破裂/胆汁性腹膜炎)、粘度の高いムチンが総胆管に閉塞することなどにより、嘔吐や黄疸などの症状があらわれます。

胆泥だけでリスクがあるという見解は否定的です。
以下の論文によると、二次診療施設を受診した200例の66.5%に胆泥が認められ、肝酵素値やコレステロール値と胆泥の有無に相関はなかったそうです。
高齢犬や甲状腺機能低下症/副腎皮質機能亢進症の有無とは関連が認められたそうです。
つまり、健康診断で肝臓値が高くて胆泥を認めた場合に、それを関連づけて説明するのは無理があるということです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27008319/
また、別の論文によると、胆泥を認めた無症状犬45頭の1年間の追跡調査では、症状や肝酵素値に有意な変化はなかったそうです。
ただ、重力非依存性胆泥(非可動性胆泥)の割合が増えたという記載はありますので、定期検査は必要でしょう。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26992049/

確立された唯一の治療法は外科的摘出です。
ただ、比較的新しい論文でも手術全体の死亡率は9%、その中で有症状の緊急手術群は死亡率20%、無症状の待機手術の死亡率は2%というものがあります。手術には周術期の死亡リスクがどうしてもつきまといます。
また、破裂群と非破裂群を比べると破裂群の死亡リスクは2.7倍と言われます。
定期検査を獣医師の推奨する範囲で行い、粘液嚢腫化した場合は症状が出る前に早期に手術というのが、現在推奨されるゴールドスタンダードということになります。

粘液嚢腫化した場合に効果的な内科的治療法はありません。摘出手術を早期に行うべきです。
症状が出てからの手術では死亡率が上がるからです。
では予防法はないのでしょうか。
残念ながら現時点で確立された予防法はありませんが、もしかしたら有効かもしれない方法を、飼い主様のご事情に応じて希望があれば行うというのが現状です。

①基礎疾患を探す/あれば治療する
当たり前ですね。
甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、高脂血症は胆嚢粘液嚢腫のリスク因子です。
血液検査やエコー検査などを行い、基礎疾患があれば治療しましょう。
②ウルソデオキシコール酸
肝胆道系疾患といえば、良くも悪くもとりあえずウルソですね。
副作用を感じたことはないですし、飲んでいれば肝臓値が正常化するのにやめると上がるという子も結構多いので、地味ですが凄い薬だと思います。
胆嚢粘液嚢腫に関連して期待できる効果はそれほどないですが、胆汁量を増やすことでムチンの排泄を促す可能性はありますし、親水性胆汁酸が増えることでもしかしたらムチン産生刺激を低減するかもしれないとも言われますので、何か薬を使うなら第一選択でしょう。
③食事療法
低炭水化物/低脂肪食で胆汁内のムチン濃度が低下したとか、高脂肪食を与えると胆嚢収縮率が低下するなどの論文が出ています。
食事は何かしら食べなきゃいけないので、薬と違って手を出しやすいですし毎日のことなので効果の期待も結構大きいと思います。低脂肪食(総合栄養食の範囲で)にするのが良さそうです。
また、胆汁分泌(胆嚢収縮)は摂食によって促進されます。長時間の絶食は胆嚢内容物が胆嚢内に長時間貯留しやすくなるため、可能なら1日3回食事を与えた方が良さそうです。
昼にはご家族が誰もお家にいないというご家庭の場合でも、最初に帰宅した人が夕方に食事を与え、飼い主さんの就寝前に食事を与えれば1日3回の食事が可能です。
④トレピブトン
胆管の出口を広げて胆汁排泄を促進する薬です。
ほとんどエビデンスはありませんが、特に害もなさそうなのでどうしても全部やりたいという飼い主様はやってみても良いかもしれません。
⑤モサプリド
消化管運動促進薬です。
モサプリドが刺激するセロトニン受容体は胆嚢にも発現しているのではないかと言われるので、胆嚢の収縮性が改善する可能性があります。
胆泥の改善や粘液嚢腫予防としてはほぼ使われていない薬ですが、個人的には④よりは期待できそうな気がします。

上記のエコー画像は冒頭の胆嚢摘出した症例の手術9か月前のエコー画像です。2枚とも同日です。
そんなに量は多くありませんが、胆嚢壁にはりつくような胆泥「重力非依存性胆泥」を認めます。

胆泥は①重力依存性胆泥 と ②重力非依存性胆泥 に分けて考えます。
①は重力方向に動くということです。
立位でエコーを見ると重力に従い腹側に溜まっていた胆泥が、仰向けにすると重力に従い背側に移動するなら重力依存性胆泥です。流動性胆泥とか可動性胆泥とか言われたら同じ意味です。
これを異常所見とすると、高齢犬の大半は異常になってしまいます。重力依存性胆泥にウルソを処方し続けることを当院では推奨していません。
定期検査はした方が良いと思います。最低でも年に1回はエコー検査を行うのが良いでしょう。

問題は②です。
重力によって動かない壁にはりついたような胆泥です。これがある子がみんな粘液嚢腫化するかというと、そんなことはないと思います。ただ、①よりはリスクが高い状態と言えると思います。

今回このような症例を経験させていただいたので、当院では重力非依存性胆泥を認めた場合には、エビデンスは乏しいことを説明した上で、しかしながら、もし胆嚢粘液嚢腫になってしまうと命に関わるので少しでも可能性を下げたいとご希望いただけるのであれば、飼い主様に無理のない範囲での予防策をご提案するようにしようと思います。

ここまで述べたように、まだ未解明の部分が多い病気なので、上記はあくまでも当院の2026年2月現在の方針であって、他院の知見・経験に基づく方針を否定するものではありません。
当院の方針もまた今後の新しい論文や、自験例などを踏まえて変わることがあります。

胆泥症の治療に関してお悩みの飼い主様がいらっしゃいましたら、是非はら動物病院までご相談にいらしてください。