がん検診について考えさせられること ~当院では線虫がん検査は行いません~
こんにちは。原です。
当院では線虫がん検査は行いません。将来的にもっと研究が進めばわかりませんが、現状のエビデンスレベルでは行いません。
リキッドバイオプシー(血液でがん検査)の検診利用は、ご希望があれば実施を検討しますが、やはりもう少しエビデンスがほしいとことろです。
線虫がん検査は偽陽性と過剰診断の両方の問題が、リキッドバイオプシーには過剰診断の問題があると思います。
何が問題なのかは全て以下に書かれております。
web上での様々な啓蒙活動をひそかに尊敬している、人の内科医の名取(NATROM)先生の記事です。
https://president.jp/articles/-/61351
全ての検査において、感度・特異度ともに100%という検査はあり得ないと思います。通常診療で獣医師が行う検査というのは、その病気の疑いがあるから検査を行います。臨床症状やその他の検査所見も踏まえて総合的に診断します。
疑わしい徴候がない状態で幅広く行う検査を行うと、特異度が高い検査でも多数の偽陽性が出ます。
特異度が90%(真陰性集団のうちの10%が陽性(偽陽性)となる)の検査でも、真陰性1000症例に検査を行えば、100症例は偽陽性が出るわけです。
線虫がん検査は人で大変問題になっている検査で、NATROM先生をはじめ多くの見識の深い先生方が反対されています。
この検査で、がんのリスクが高いと判定され、PET-CTなど様々な検査を行い、結果何も見つからない人が多数出ているそうです。これは偽陽性の問題です。
例えば「大腸がんの疑い」であれば内視鏡検査をすれば良いと思いますが、線虫がん検査はがん種の特定はできません。何の がん かはわからないが疑いが高いと判定されれば心配になります。あらゆる検査を行い、結果何も見つからないかもしれないわけです。非常に問題が大きいと思います。
これに対してエクソソーム内のmiRNAを検出するリキッドバイオプシーは特定がん種ごとの検査で、おそらく感度・特異度共に線虫がん検査よりは精度が高そうです。
https://corezon.site/liquidbiopsy/owner
しかし、仮に感度・特異度ともに100%だとしても、過剰診断の可能性はあります。過剰診断に関しては冒頭にご紹介したNATROM先生の記事の神経芽細胞腫検診に関してをご覧ください。
これは、人だからこそしっかりした追跡調査が行われたわけでして、動物ではがん検診が死亡率低下に寄与するのかどうかの調査は不可能です。
リキッドバイオプシーに関しての現在の当院の考えは、検診として無症状の動物に幅広く行うというよりは、腫瘍を疑う動物に対しての診断ツールの一つとして考えています。細胞診や組織生検ではなく、採血でがんの検査ができるというのは有用だと思います。
しかし、無症状の動物に対して広く検査を行うことには慎重に考えたいと思います。