こんな病気の診察をしています その2 膀胱がん

昨年(2022年)、東京大学から「犬の膀胱がんに対する新しい分子標的療法の確立」という研究発表がありました。
ラパチニブ+ピロキシカムの生存期間中央値は435日で、これまで報告がある治療法よりも生存期間が延長され、かつ、副作用が少ないという論文です。

これまで報告がある治療法の生存期間中央値は以下の通りです。
シスプラチン+ピロキシカム 179~329日
ミトキサントロン+ピロキシカム 350日
手術+補助療法 348~385日

しかも、ラパチニブは内服薬であり、副作用も非常に少なかったという報告です。
シスプラチンは大変腎毒性が強い抗がん剤で、現在の獣医療ではほとんど使われることがない薬です。静脈点滴での投与ですし、投与前後も長時間の点滴が必要です。
ミトキサントロンも点滴での投与が必要ですし、骨髄抑制や漏出での組織壊死の可能性があり、高額なのも難点です。
膀胱全摘などの手術をしても完治となることは少なく、再発・転移で亡くなることが多いそうです。また、術後しばらく経ってからも腎臓への感染が問題になることも多いようです。

これらを踏まえると、ラパチニブ(国内薬の商品名:タイケルブ)は大変有用な薬ということになります。ただ、薬価は高いです。
当院での処方価格は100錠単位で購入するか10錠単位で購入するかによって異なりますが、約¥2,100~3,600/錠です。
5kgのわんちゃんで1日1回1/2錠です。かなり高額な薬だと思います。
ただ、リンパ腫の抗がん治療で毎週通院していただく場合には、検査や投薬で総額100万円前後になってしまうことも珍しくありません。本薬は、副作用の少なさから検査を少なくできれば、抗がん治療としては法外に高額ということでもないように思います。

そうはいっても高額ですし、治療が上手く行けばいくほど投薬期間は伸びるわけです。生存期間中央値は中央値であって、もっと早く亡くなる症例もいれば、もっと長生きできる場合もあるのです。
治療に関して価格がネックとなる場合には、ジェネリック薬の使用という選択肢があります。事情はよくわかりませんが、ラパチニブはインドでだけ特許が否定されたらしく、インドにのみジェネリック薬が存在します。
ジェネリック薬は、それ自体は臨床試験を行っていない薬なので、先発薬と同じ効果と言い切れません。抗がん剤治療を行う上で推奨はいたしませんが、選択肢にはなります。
輸入するためには様々な諸費用と時間がかかりますので少量ずつの購入はあまり意味がないと思いますが、ある程度のまとめ買いをすれば、薬価がかなり下がると思います。(その時の為替レート等で価格は変動します)
諸々のリスクを踏まえても、なんとか費用をおさえて膀胱がんの治療をしてあげたい、という飼い主さまがいらっしゃいましたら、当院までご相談にいらしてください。

犬の膀胱がん治療のご相談でいらっしゃる場合には、BRAF遺伝子変異陽性の検査結果など、これまでの検査結果や治療経過がわかる資料を全てお持ちください。