愛犬/愛猫の血圧測定 ~心腎疾患(など)と高血圧~
血圧はヒトの病院だと、とりあえず測りますよね。
自動測定器があって、「診察に呼ばれる前にご自身で測っておいてください」って言われるイメージです。
では、愛犬/愛猫の血圧を測ったことはありますでしょうか?
多くの方はないと思うんですよね。これには2つ理由があります。
①高血圧の有病率が人より低い可能性が示唆されている
②血圧を測るのが大変
それぞれに関してもう少し詳しく検討しましょう
①高血圧の有病率が人より低そう
獣医学では均一な測定技術が確立されていないことや、確立された閾値がないことから有病率の検討が困難ですが、血圧測定は健康診断の一環としてもあまり実施されていないと思います。
それでいて血圧を測定していなかったことから後で大きな問題になるということは経験的にはほとんどなく、一般に高血圧に関して人医療ほど注目されていないと思います。
犬に関しては、高血圧になりづらいのではないかという論文も出ています。
しかし、高血圧はしばらく無症状であることが多く、測定してみないことにはわからないです。
当院では猫ちゃんのわんにゃんドック(総合健診)はスタンダードコースとプレミアムコースで、わんちゃんはプレミアムコースで血圧測定を実施しています。
ACVIM(米国獣医内科学会)は9歳以上の犬猫で年1回の測定を推奨しています。
②血圧を測るのが大変
血圧は興奮していれば上がってしまいます。動いてしまうと正しい測定結果になりません。
動物で正しく測定するのは非常に難しいです。
当院では5回以上測定して、最高値と最低値は除外して3回以上の平均値を出していますが、それでもその数値が正しいとは言い切れません。
高血圧は標的臓器障害を伴っていたり、明らかな著しい高値でない限りは2回以上の検査で高血圧を確認してから治療に入るのが一般的です。動物での血圧測定は、手間と時間がかかります。
こういったことを踏まえて、無症状の動物に対してどこまで検診的血圧測定をおすすめするかは、動物病院それぞれに方針があると思いますが、一般的に測定しなければならない場合というのがあります。
それは、高血圧の原因になり得る疾患を診断した場合や、高血圧が悪化因子になり得る疾患を診断した場合です。
これらには、心臓病、腎臓病、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能亢進症などの疾患があります。
この中で、特に重要なのは心臓病と腎臓病ではないでしょうか。
高血圧があると心臓病は悪化します。
血圧が高いということは、血管が細く締まっている可能性が高いです。細い血管に頑張って血液を送り出さなければならない心臓には余計な負荷がかかります。ですから、血管拡張薬(血圧を下げる薬)を使って心臓の負担を軽くしてあげる必要があります。
腎臓病は高血圧の原因になり得ますし、高血圧の結果悪化もします。
腎臓から分泌されるレニンは、血圧を上昇させるアンギオテンシンⅡというホルモンのもとになります。慢性腎臓病では血圧調節機能も異常を起こして高血圧の原因になります。
また、血圧の上昇は腎臓の負担を増加させ、腎臓病は進行します。
このため、腎臓病と高血圧が合併している場合は当然血圧を下げたいのですが、降圧剤の副作用で腎機能が低下することがあります。
腎臓病の子に降圧剤を投与し始める場合、一般状態が良くても数日~1週間での再診が望ましいです。かなり進行して状態が悪いと、降圧治療が難しい場合があります。
最近ちょっと気になるのは、血圧測定は思った以上に実施されていないのかもしれないと感じることがあります。
慢性腎臓病のステージングは有名で、インターネットで誰でもご覧いただけますし、様々なご事情での転院症例やセカンドオピニオン症例でも、「慢性腎臓病のステージ〇ですって診断されました」とおっしゃる飼い主さんも多いです。
https://www.javnu.jp/guideline/iris_2019/download/iris-pocket-guide-jp.pdf
そのIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)のステージングの表には、サブステージとして蛋白尿かどうかの検査のUPCと血圧が載っているんですよね。何で載っているかって、もし高血圧や蛋白尿があったら治療した方が余命が伸びるからです。
ステージングする時にクレアチニンの数値などを確認するために表を見るなら、そこにUPCと血圧が載っています。うっかり忘れていたとしても、そこで気づいて検査すれば良いのではないかと思うのですが、検査されていないことが多い印象を持っています。
慢性腎臓病を疑う犬/猫に対する検査で、当院で蛋白尿や高血圧が検出される率は正直なところあまり高くはありませんが、ゼロではありません。時々引っかかります。
早めに検出して適切な治療を行えば元気でいられる時間を伸ばしてあげられます。
愛犬/愛猫の血圧が心配な飼い主様は、はら動物病院へのご相談をご検討ください。