犬アトピー性皮膚炎の再定義

犬アトピー性皮膚炎の再定義の話なのに、最初の画像が人の花粉症のですいません。
著作権フリーでちょうど良い画像がなくて。

犬アトピー性皮膚炎の定義は現在のところ、2006年に発表された定義が広く使われています。
「遺伝的素因を有した炎症性・掻痒性のアレルギー性皮膚疾患であり、環境抗原に対するIgEが関与する特徴的な症状を認める」
というものです。
ほぼ花粉症みたいな説明ですよね。
でも、「ほぉほぉ、なるほど。花粉症みたいなもんなのね。じゃあ同じような治療しましょ」とやると、全然うまくいきません。
そこで、2024年に再定義が提唱されたそうです。

提唱された新定義は、
「遺伝的素因を有した、かゆみを伴うT細胞主体の炎症性皮膚疾患であり、皮膚バリア異常、アレルゲン感作、細菌叢の乱れの相互作用が関与する。」
です。

これは素晴らしいのではないでしょうか。これなら定義さえおさえておけば治療を間違わずに済みますね!

旧定義の何が問題かというと、IgEが関与するということはトップ画像のように肥満細胞からのヒスタミン放出が主要な炎症の原因のひとつであるはずで、抗ヒスタミン剤が有効なはずです。花粉症には抗ヒスタミン剤が使われますよね。
でも、犬アトピー性皮膚炎に抗ヒスタミン剤はほとんど効きません。一部、多少有効性が認められたという報告もあるようですが、個人的には効いたと思ったことは一度もありません。痒みの原因の一部である可能性はあるでしょうけれども、主な原因ではないと思われます。

新定義からはIgEという文言がなくなりましたので、定義を読んで短絡的に抗ヒスタミン剤を使用すれば良いとは考えずに済みます。(抗ヒスタミン剤が効く子もわずかにいるでしょうし、補助薬としては効果が期待できるとは思いますが、第一選択になる薬だとは思いません。)
更に、皮膚バリア異常と細菌叢の乱れにも言及されています。

アレルゲンに感作された状態を実験的に作出しても痒みは生じないと言われています。皮膚が健康ならばアレルゲンは通過しづらいからです。アトピー性皮膚炎では、皮膚を清潔に健康な状態に保つことは非常に大切で、薬だけ飲んでいれば良いというものではありません。
じゃあ、皮膚バリア異常に対するケアって何なのさというと、最も大切なのは保湿です。人と同じです。ボディーソープのCM等でよく耳にするやつありますよね。「セラミド」です。人も犬もセラミドが大切です。どうやって補うかは診察室でご相談ください。
また、皮膚の水分量をなるべく損なうことなく、細菌やマラセチア菌(酵母様真菌)を洗い落すことが必要です。洗浄力と皮膚へのダメージはトレードオフになってしまうところがありますが、シャンプーの代わりにマイクロバブルシャワーヘッドで洗浄するのが良いのではないかという報告が出てきました。トリミングサロンでマイクロバブルを使用できるところが増えてきていますので、トリマーさんと相談してみてシャンプーを使わないでお試しされるのも一つの手かもしれません。

そして細菌叢の乱れです。
皮膚の細菌叢が乱れてブドウ球菌が増えると湿疹ができます。また、腸内細菌叢の乱れによって制御性T細胞が減ると、免疫異常が強化されてしまいます。
湿疹ができやすいタイプのアトピーの子には、セラミド保湿and/or制菌剤の外用を行うことがあります。また、腸内細菌叢の乱れにはオリゴ糖の一種であるケストースや生菌剤の内服を行うことがあります。

このように新定義では、犬アトピー性皮膚炎の治療で必要な概念を包括しております。

はら動物病院では、今後も最新の情報に基づく治療をご提案してまいります。
アレルギー性皮膚疾患でお困りの飼い主様は、はら動物病院までご相談にいらしてください。