犬のストラバイト結石は正しい抗生剤選択により溶解する

寒くなって飲水量が減るからか、最近は膀胱炎でご来院される動物が多いです。
最近はどちらかというと内科的に溶解不可能なタイプのシュウ酸カルシウム結石が多いですが、ストバイト結石の症例がいなくなったわけではありません。

私が若いころは、とにかくフードでPHを下げれば溶けるんだと指導されまして、PHコントロールがいいんだとかs/dでないと溶けないんだとかそんな話をしていた記憶があります。
近年は、犬のストラバイト結石はほとんどの場合に細菌感染が原因であり、治療の主軸は適切な抗生剤の使用であって、治療的にも予防的にも食事療法は補助的なものであるという認識に変わってきております。
また、無症状の動物からご自宅で採尿されて動物病院で尿検査を受けた場合のストラバイト結晶の検出は、多くの場合に尿の温度が下がったことで採尿後に析出したものであって、体内では形成されていないのではないかと言われております。
「尿検査でストラバイト結晶を確認→そういう体質なんでPHコントロールを食べ続けてください」というのが昔は当たり前だったので、わんちゃんが若いころにストラバイト尿症といわれて10年くらいそれ(PHコントロールはユリナリーs/oという名前に変わりましたね)を続けている場合は、もしかしたら必要性は低いかもしれません。ただ、補助的な意義はありますので続けていたことが無意味ということはないと思います。

と、ここまでは昔の話で、現代は、「犬のストラバイト結石に対しては適切な抗生剤の使用が治療の主軸」というのは獣医師であれば共通認識となっているはずです。
ただ、この「適切な」というのが難しいところです。
どの細菌が出ていて、どの抗生剤を使うのか。これは臨床現場での適切な検査と、検査センターの選択が大事になってくると考えております。
まずは院内での尿検査で細菌が出ていることをしっかり確認することが大切です。グラム染色を実施し、グラム陽性/陰性と菌の形態が球菌なのか桿菌なのかを確認します。
その上で尿の細菌培養・薬剤感受性検査を検査センターに依頼します。
培養検査が院内検査の代替になるわけではないので、院内検査と培養検査の結果が一致することをしっかり確認することが大切です。

次に検査センターの選択です。
当院は基本的に「どうぶつの細菌検査」さんにお願いしております。(状況によって別の検査センターに依頼することもあります)
薬剤感受性検査というのは、菌液を塗布した培地上に抗生剤含有ディスクを置き、菌が生えてこない阻止円の直径を測る方法が一般的です。
この阻止円の直径で感受性(S)なのか耐性(R)なのか中間(I)なのかを決めます。人では厳密に定められた基準が存在しますが、動物ではよくわかっていないことが多いです。
どうぶつの細菌検査はS,I,Rの表記だけでなく実際の阻止円直径直径とS基準を明示してくれるので、S基準よりもなるべく大きい阻止円直径を示している薬剤を選択することで、抗生剤がしっかり効いてくれる可能性が高まります。
また、この阻止円の判定ではMRSなどの薬剤耐性菌が正しく検出できない可能性が示唆されています。MRSに対しては、阻止円の判定では感受性でもβラクタム系の抗生剤は実際の動物への投与では無効となる可能性があります。オキサシリンによる判定でもMRSが検出できないことがあります。
その点、どうぶつの細菌検査さんではMRSかどうかをmecA遺伝子の検出により判定してくれるため安心です。
ここで実際の症例の検査結果を見てみましょう。

上記を見ると、阻止円直径の判定だけだと、アモキシシリンクランブラン酸が3菌種とも感受性になってしまうんです。
しかし、最も菌数の多いブドウ球菌のmecA遺伝子を持っていることから、βラクタム系抗生剤に対しては阻止円の直径にかかわらずR判定となっております。
この症例は追加薬剤の感受性検査で、内服でも3菌種共に効果がある抗生剤を見つけられたため、それを用いることでトップ写真の通り内科的に溶解させることができました。

実際に試していないのでわかりませんが、もしmecAの遺伝子検査を行っていない検査センターに培養検査を依頼し、ブドウ球菌が耐性菌であることを検出できなかった場合、アモキシシリンクランブラン酸に感受性があると判定する可能性があります。
感受性があるはずの抗生剤を使っても溶解できないとなると、内科的にはそこで行き詰まってしまいます。
手術して摘出していたかもしれません。術後にもアモキシシリンクランブラン酸を使用することになると思いますが、効果がないのでまたすぐ再発なんてことになっていたかもしれません。

正しい抗生剤の選択は、不必要な抗生剤の使用を減らすことにつながり、環境中の耐性菌の増加を防ぎ動物にも人にも優しい治療になります。
愛犬/愛猫の膀胱結石/膀胱炎でお悩みの飼い主様は、はら動物病院の受診をご検討ください。