猫の心臓病(心筋症)

わんちゃんの心臓病と言えば心臓弁膜症(僧帽弁閉鎖不全症)で、ねこちゃんの心臓病と言えば心筋症(肥大型心筋症)ですね。

一般の飼い主様からすれば、「ですね」って言われても...だと思いますが、大部分はそうなんです。
もちろん犬も猫も他のタイプの心臓病もありますが、犬の心臓病の大部分は弁膜症で猫では大部分が肥大型心筋症(フェノタイプ)です。
突然(フェノタイプ)が出てきました。これは何かというと、「肥大型心筋症に見える」ということです。
猫ちゃんは、脱水でも高血圧でも甲状腺機能亢進症でも心筋が肥厚します。こういった場合は適切な治療でもとに戻ります。一方で真の肥大型心筋症が治ることはありません。この両者の区別は非常に難しいです。
そこで、真の肥大型心筋症も、肥大型心筋症もどきも全部ひっくるめて、肥大型心筋症フェノタイプと呼びます。

はい、この時点でもうややこしいです。
わんちゃんの場合には、かなり明確な診断・治療基準が示されており、心雑音の大きさ、レントゲンでの心臓の大きさ、心エコーでの左心房の大きさの全てが一定基準を超えているのであれば、たとえ症状がなくても治療薬の内服を開始しましょうね、そのことによって生命予後(寿命)が伸びますよ、ということが示されています。ですから、当院を含めた多くの動物病院でその基準をもとに診断・治療を行っています。
※もし、かかりつけの動物病院で心エコーでの評価をしてもらえないようでしたら是非当院へご相談ください。

ところが、ねこちゃんの心筋症には明確な国際基準がありません。
しかも、古くから使用されているβブロッカーと呼ばれる治療薬の早期使用は統計学的に生命予後を改善しない、という論文が示されています。
つまり、診断も難しいし、早めにみつけたところで有効な治療法もないし、あまり積極的に検査する意義がないな...と思っていました。

ところが、そんなことはないんですね。ちゃんと検査しないとダメですね。反省しました。

よくよく勉強してみると、犬も猫も結局のところ重要なのは左房の大きさなんですね。
僧帽弁の閉鎖不全による逆流でも、心筋症による左室の拡張不全でも、危険な指標として最も重要なのは左心房の大きさみたいですよ。

ねこちゃんは、わんちゃんのように病態の進行に合わせて心雑音が大きくなってくれたりはしないので、身体検査や聴診ではわからないのです。
臨床症状のない心筋症の子が、胃腸炎や腎臓病で点滴治療や皮下補液を受けた場合、肺水腫や胸水で最悪亡くなってしまうことが起こり得ます。
こういったことが起こり得るのは左房が拡張しているほど進行した心筋症の場合です。無症状の心筋症に治療開始が推奨されるのもやはり左房が拡大してきた段階からです。犬とは異なり、明確な基準値は示されておりませんが、おおよそ基準はあります。

当院では、わんちゃんでは心エコーを日常的に実施しており、一次診療のかかりつけ医として必要なレベルの評価はそれなりにできているのではないかと思っています。しかし、ねこちゃんには心エコーをほとんど行っておりませんでした。重要性を理解できていなかったと反省しています。
また、重要性に気づいていたとしても、心筋壁厚の評価がとても難しいと感じており、それをもとに診断・治療の判断をするのは私には厳しいなとも思っていました。
しかし、心筋壁厚の評価は診断には重要ですが、早期に診断しても有効性が明らかな治療法は存在しないですし、現在のところ重要なのは左房の評価だということがわかりました。左房の評価であれば犬と同様に(実際には犬よりも多角的に)可能だと思います。

猫ちゃんで心エコーを行うためには、ガバペンチンなど鎮静効果が出るお薬を飲んでからご来院いただく必要があるかもしれませんが、今後は積極的に検査をおすすめしたいと思います。