犬の心臓病初期にできること

小型犬で最も一般的な心臓病は僧帽弁閉鎖不全症です。
心臓の弁に粘液腫のような変性が生じることで弁が完全に閉じなくなってしまい、徐々に心臓の機能が落ちていきます。
弁が閉まらなくなることが原因なので、根治的治療は心臓外科手術です。小型犬でも徐々に一般的になってきておりますが、公的保険の対象ではないわんちゃんでは高額な手術料金の自己負担がネックとなり、誰もが受けられる治療ではありません。

当院のような街の一般的な動物病院では、強心薬や利尿薬を中心とする内科療法を行います。
内科療法の適応は、
①心疾患が原因と考えられる何らかの症状がある場合(咳や運動不耐など)
②レントゲンとエコー検査でstage B2以上と診断された場合
です。

わんちゃんの僧帽弁閉鎖不全症は、無症状の段階でかかりつけ医の日常診療の中で心雑音として発見されることが多いです。
この場合、ほとんどの子でstage B1という、まだお薬の適応にならない段階です。
薬には作用があれば副作用もあるわけでして、進行性の慢性心疾患があるからといって推奨されない初期段階から投薬を開始することは良くないです。弁の変性を助長したりなどの悪影響があるからです。
ただそうなると、病気があるのはわかっているのに、何もできないというもどかしさをお感じになる飼い主様もいらっしゃいます。

ということで、何かできることはないものかと探してみると、オメガ3脂肪酸は良い効果が期待できるかもしれません。
こんな論文がありました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8282066/

残念ながらstageB1ではなくstageB2とstageCを対象とした12か月間の前向き研究ではありますが、オメガ3脂肪酸投与群ではレントゲンでの心臓の大きさ(VHS)の減少(改善)を認め、不整脈の発生がコントロール群よりも少なかったそうです。
この研究ではフード100kcalあたり、約170mgのDHA+EPAを添加したそうです。DHAやEPAはオメガ3脂肪酸の一種です。
これはなかなかの量でして、例えば3kgのわんちゃんでの1日に与える食事の必要カロリーは220~260kcal程度です。
ということは、オメガ3脂肪酸は370~440mg/日ほどが必要ということになります。

これを目安に、どのような商品でオメガ3脂肪酸を与えるか検討してみましょう。
①アンチノールプラス
アンチノールからアンチノールプラスになってオメガ3脂肪酸含有量の記載が消えてしまいましたが、おそらくアンチノールプラスでは全然足りないです。アンチノールはω3の中でも抗炎症作用に優れた部分のみを集めたものという認識でして、少量で摂取しやすく関節炎や皮膚炎に対して抗炎症作用が実感できるところが魅力のサプリメントです。
心疾患に対して長期投与するのであれば、論文に近い用量を使いたいところです。アンチノールで必要量を投与するのは現実的ではないように思います。プラスになる前のアンチノール1カプセルあたりのオメガ3脂肪酸含有量は21mgでした。
②オメガダーム
1包で約300mgのω3脂肪酸配合です。動物用医薬品メーカーでもあるビルバック社のサプリメントなので品質も安心です。3kgのわんちゃんで1包/日でも若干文献量に届きませんが、170mg/100kcalというのは損失を考慮してだそうで、摂取させたい目標量は150mg/100kcalということなので、それを踏まえるとかなりいい線行っていると思います。価格的にも使いやすいです。
③ロトリガとそのジェネリック
ヒトの医薬品です。医薬品なのでペット保険の適応になります。ただ、2gつまり2000mgなのですよね。小型犬にはちょっと多いですね。開封後の安定性は不明ですし。
④エパデールとそのジェネリック
こちらもヒトの医薬品です。300mg,600mg,900mg製剤があるので使いやすいです。ただしEPAのみの製剤で、DHAは含まれておりません。
⑤アマニ油
オメガ3脂肪酸が豊富ですよ、ということでスーパーなどで販売されていますね。脂肪酸の含有量も公表されているので、それを参考に与えてみても良いかもしれません。
ただ、植物由来のオメガ3脂肪酸はα-リノレン酸であって魚油由来のDHAやEPAとは異なるので、同じ量を摂取したとしても同様の効果が得られるのかは不明です。

シチュエーションごとに考えてみるとこんな感じでしょうか
①炎症性疾患があってアンチノールを与えている場合はそのまま継続、もしくは他の製品に切り替えてω脂肪酸の摂取量を増やす
②ペット保険に入っていないけれども、論文になるべく近い投与量で与えたい場合はオメガダーム
③大型犬の場合はロトリガ
④小型犬でペット保険を使いたい場合はエパデール
⑤気軽に試したい場合はアマニ油

動物の心臓病に対してオメガ3脂肪酸の摂取は、今のところ強いエビデンスがあるわけではありませんが、薬というよりも食事療法的な部類に近い取り組みなので、副作用はほぼありません。
もちろん標準治療の代替になるものではありませんが、副作用の心配がほぼなくメリットがある(かもしれません)ので、標準治療にプラスする取り組みとしてオメガ3脂肪酸を与えることを検討しましょう。

既に心臓病治療中の動物にオメガ3脂肪酸を与える場合、まずはかかりつけの獣医師に相談しましょう。禁忌になる状態はほぼないとは思いますが、消化器疾患を併発している場合などで使用しないように指導されるケースがあるかもしれません。

僧帽弁閉鎖不全症の診断・治療、+αとしてのサプリメントのご相談は、千葉市緑区のはら動物病院までいらしてください。