貧血の鑑別 骨髄穿刺を実施した症例

日常生活で使われる「ひんけつ」という言葉には、低血圧や血管迷走神経反射などでの虚脱を意味することがありますが、医療/獣医療で使われる「貧血」とは、ヘモグロビン量の低値です。
定義としてはヘモグロビン量ですが、要するに赤血球が少ない状態ということとほぼ同じ意味です。

貧血は、手足などの抹消から採血した血液の所見で、まず2種類に分類します。
①再生性貧血
②非再生性貧血
です。

①再生性貧血
貧血に反応して若い赤血球が多数認められる状態(再生像を認める状態)を再生性貧血と呼びます。
この原因は大別すると2種類だけです。出血か溶血です。
出血はわかりますね。外傷や脾臓破裂などの腹腔内出血が起きて貧血している状態です。出血に反応して血液産生が亢進しており再生像を認めます。
溶血とは、何らかの原因によって赤血球が壊れてしまう状態です。
原因としては、免疫介在性、感染性、先天性(PK/PFK欠損など)、ハインツ小体性(中毒など)、細血管障害性(腫瘍・フィラリア症など)、低リン血症、ハチ毒/ヘビ毒、亜鉛中毒があります。
再生性貧血の場合に骨髄穿刺を行うことはほとんどありません。骨髄が正常だから再生像があるわけで、骨髄外疾患を鑑別します。

②非再生性貧血
貧血しているのに再生像を認めない状態を非再生性貧血と呼びます。
原因としては、再生像が表れる前の出血/溶血、骨髄疾患(PIMA/NRIMA、赤芽球癆、腫瘍)、非骨髄疾患(内分泌疾患、腎疾患、慢性炎症性/腫瘍性疾患、消化管出血による鉄欠乏性貧血、感染症)が考えられます。

貧血の中で診断に困ることが多いのは、中程度~重度の非再生性貧血だと思います。骨髄穿刺が必要だからです。

血液の血球系は、体を感染症から守る「白血球」、酸素などを運ぶ「赤血球」、止血に関わる「血小板」の3系統に大別されます。
このうちの2系統以上の減少を認める場合は骨髄に異常がある可能性が高いため、骨髄穿刺が必要になります。
赤血球のみの減少の場合、中程度以上の非再生性貧血を認める場合にも診断に骨髄の所見が必要なため、骨髄穿刺が必要です。

今回は、中程度~重度な非再生性貧血を認め、各種感染症検査も全て陰性だったために骨髄穿刺を行いました。
その結果、無効造血が確認されPIMA(前駆細胞標的免疫介在性貧血)/NRIMA(非再生性免疫介在性貧血)と診断しました。
PIMAとNRIMAに関しては、現状の獣医学で診断名が厳密に決まっておりませんが、治療は同じです。

骨に穴を開けるわけですから全身麻酔が必要で、麻酔記録を取ってくれる看護師は必要ですが、処置としては獣医師一人で可能です。多数の人手は必要ありません。
骨髄液は凝固してしまうと診断価値が乏しくなるため、空のシリンジに吸引する場合は迅速に塗抹標本を作製する必要があり、一人で行うのは難しい部分がありますが、EDTA希釈液(抗凝固剤)を適切に用いることで一人でも落ち着いて実施できます。
EDTA希釈液を用いて採取した骨髄液は凝固しないため、後でシャーレに出して骨髄小片を集めて塗抹標本を作製すれば診断的価値の高い塗抹標本を落ち着いて作成することができます。
トップ写真のシャーレ内のつぶつぶは凝血塊ではなく骨髄小片です。
特別な装置も必要ありませんので、当院のような一次診療クリニックで十分実施可能です。

原因があるから貧血になります。
原因は多岐にわたりますが、正しい知識に基づき適切な検査を行うことで診断がつくことがほとんどです。
診断なしに適切な治療は不可能です。
とりあえず鉄剤のサプリメントとか、なんとなく様子見というのは危険です。

愛犬/愛猫が貧血だけれども原因の診断がついていないという飼い主様は、はら動物病院までご相談にいらしてください。