咳が治らない猫ちゃんのセカンドオピニオン 猫喘息について


猫喘息と正しく診断するには、同様の臨床症状を生じ得るその他の疾患を除外の上で、猫喘息に特徴的な検査所見と合わせて総合的に診断する必要があります。
具体的には、喉頭・気管・気管支・胸膜・心臓の腫瘍性疾患や感染症などの喘息以外の疾患の除外を行い、CT+気管支肺胞洗浄により喘息に特徴的な検査所見があれば猫喘息と診断するのが正しい診断法です。
当院にはCTはありません。しかし、暫定的に「猫喘息」と仮診断して治療を行う場合があります。
猫ちゃんの発咳に対する当院の検査・治療に関して、セカンドオピニオン症例への検査・治療を通してご説明いたします。
主訴(来院理由)
1年前から発咳で他院に通院している。
最近は毎日咳をしている。
診断名の説明はないが、保険請求のための診療明細には「気管支炎」と書いてある。
抗生剤やステロイド剤の内服が処方されていた。
効果があったこともあるが、ステロイド剤内服を減量すると発咳が再燃する。
犬用キットを用いたフィラリア抗原検査は陰性だった。
当院で行った検査
・胸部レントゲン撮影
トップ画像がこの症例の画像です。
確かに他院での診断の通り、気管支炎を疑う気管支パターン像を認めます。
診断
・猫喘息/慢性気管支炎 の疑い
もう少しフィラリア症に関して検査を行うのであれば、心エコー検査で虫体の有無を確認するとか抗体検査を行うなどもあると思いますが、これらで感染が完全に否定できるわけではありませんし、当院周辺では犬でもフィラリア症は稀な感染症になってきておりますので、積極的に疑う理由が乏しいです。
本例の診断をしっかりつけるのであれば、CT+気管支肺胞洗浄が可能な大学病院などにご紹介です。
気管支肺胞洗浄液の感染症PCR検査や塗抹標本の鏡検を行う必要があります。
このことをご説明しましたが、飼い主様が二次診療の受診をご希望されませんでした。
そこで、暫定的に猫喘息として治療を開始することにいたしました。
理由は以下の通りです。
①慢性咳嗽だから
発咳には発症からの症状経過期間で3種類の分類が提案されています。
・発症から3週間までを急性咳嗽
・3週~8週を遷延性咳嗽
・8週以上を慢性咳嗽
と分類します。
急性咳嗽は感染症の可能性が高く、咳嗽の持続期間が長くなるほど感染症である可能性が下がります。
②若齢だから
この症例は2歳くらいなので、呼吸器系の腫瘍性疾患の可能性は低くなります。
③ステロイド反応性だから
今までの治療経過でステロイドに反応して症状が改善していた時期があります。
「猫喘息の疑いが高いですよ。猫喘息として治療しますね。」とすることで、飼い主さんとしても「うちの子は喘息なのか」と納得できると思います。
猫の喘息ってどんな病気なのかご自身で調べたりもできますよね。
喘息と診断したところで根治できる病気ではありません。しかし、漠然と気管支炎だと言われて、治るんだか治らないんだかわからない状況が続くよりも、飼い主さんは納得できると思います。
また、喘息としてしっかり管理することで、治療による副作用を低減できますし、病態の進行を抑制できる可能性もあると考えています。
ただ、繰り返しになりますが、当院でできるのは仮診断までです。
より確実な診断は二次診療施設でのCT+気管支肺胞洗浄が必要です。
治療
・ステロイド剤の内服
喘息は、気道のアレルギー反応による無菌性炎症ですから、免疫抑制/抗炎症治療を行います。
抗アレルギー薬は、自験例で良好に反応してくれている症例がいるものの無効であることがほとんどで、第一選択はステロイド剤のプレドニゾロンの内服です。
即効性もあり、速やかに発咳が治まることが多いです。
しかし、長期投与で肝臓病、糖尿病などの副作用のリスクがあります。
・ステロイド剤の吸入
当院では長期維持治療には吸入剤を推奨しています。
人用の製剤を使います。見たことがある人も多いのではないでしょうか。こういうのです。

でも、これを吸い込んでもらわないといけないわけです。このまま動物に使うのは無理ですね。
そこで、スペーサーというものを使います。

ガス式の吸入剤をスペーサーに接続してシュッと出すと、スペーサーの中に15秒程度は保ってくれます。
その間に10吸入を目標に吸入させます。当院では最低7吸入としています。それに満たないならやり直しです。
何回吸っているのかは、スペーサーの弁の動きで確認します。

吸入ステロイドによる治療のメリットとしては、何といっても副作用が非常に少ないことです。声がれや装着部の真菌症の可能性があるとされていますが、今のところ当院ではほとんど経験がありません。内服薬を中止や頓服にすることで長期に安心して治療ができます。
また、猫で証明はされていませんが、ステロイド剤の使用を継続することで、気道のリモデリングによる気管支壁の肥厚を抑制し病態の悪化を防ぐことができる可能性があります。
デメリットとしては、効果発現まで1-2週間かかるので急性期治療には向かないこと、気道内分泌物が多い状態だと気道内壁に薬が届かず効かないことがあり得ること、毎日の吸入処置が面倒なこと、スペーサーは毎週洗う必要があること、でしょうか。
考察
ステロイド剤の内服が有効だけれども投薬終了で再燃を繰り返す発咳は喘息かもしれません。
繰り返す急性気管支炎として抗生剤やステロイド剤の内服を繰り返すと、副作用のリスクは高まり病態は進行しやすくなる可能性があります。
愛犬/愛猫の症状が治らないのに二次診療への紹介提案もなくて困っている、という飼い主様は、はら動物病院までご相談にいらしくて下さい。

