元気低下の原因が肝性脳症だった一例

後医は名医になりがちなので、そこはしっかり認識すべきではありますが、当院にセカンドオピニオンでご来院された症例で、当院だったら最初からもう少し適切にできたのではないか、と思わされる症例には共通の特徴があります。
なかなか飼い主様がその診療内容が適切なのかどうかを判断するのは難しいこともあると思いますが、セカンドオピニオンを考えた方が良いのはどういう場合なのかを本症例を通じて考えてみましょう。
主訴(来院理由)
2か月前から元気がない。食欲はある。
他院に通院していて、最初に薬を処方された時は元気になったが、その後また元気がなくなって改善しない。
処方薬はステロイド剤と甲状腺ホルモン剤。処方前に血液検査はしていない。
再診時に血液検査を1回だけ行ったがホルモン測定はしていない。
検査
時系列で列挙します。
①血液検査
絶食もできていないですし、血液検査に影響するホルモン剤を内服中ではありますが、現在の状態を把握するため、スクリーニング項目のセットを検査センターに外注することにしました。
②胸部/腹部レントゲン検査
腫瘍性疾患等で元気がないのかもしれません。状態を把握するために実施しました。
胸部レントゲン・エコー検査では異常所見を認めませんでした。
腹部レントゲンでは腎臓に不透過性陰影を認めました。トップ画像の中央と右側が症例のレントゲン画像です。
赤丸が腎臓で青丸は腎臓の石灰化~結石を疑う陰影です。通常認める結石~石灰化陰影よりも淡く見えます。
③迅速胸部エコー検査、腹部エコー検査
胸水/心嚢水、レントゲンには写らない腫瘍性疾患等で元気がないのかもしれません。状態を把握するために実施しました。
胸部のエコー検査では異常所見を認めませんでした。
腹部エコー検査では、非常にはっきりと両腎に結石陰影を認めました。膀胱にも砂状沈殿物を認めました。
エコーでははっきり見えるのにレントゲンで写りづらい尿路結石としては、シスチン・尿酸塩・キサンチン結石があります。
④尿検査
尿糖や蛋白尿、レントゲンで認めた砂状物の結晶の確認のために実施しました。
血尿でした。また、尿沈渣に尿酸アンモニウムを疑う結晶を認めました。

⑤院内血液化学測定器でNH3(アンモニア)を測定しました
②~④の検査で尿酸アンモニウム結石を疑ったので、院内機器で血中NH3(アンモニア)を測定しました。
様々な検査を行った後での測定なので、真の数値よりもやや高値になっている可能性もありますが、それを踏まえてもあきらかな高値でした。
診断
・高アンモニア血症による沈鬱(肝性脳症の疑い)
本例は9歳と比較的高齢ですが、その後の血液検査結果を踏まえて、高アンモニア血症の原因として先天性門脈-体循環シャントが疑わしいと考えました。
今後の検査としては、先天性酵素欠損との鑑別として食前/食後の血中総胆汁酸濃度検査が、後天性肝疾患の終末像としての肝硬変との鑑別には、造影CT検査+肝生検が必要です。
治療
診断を優先するのであれば、絶食での再診が望ましいところでしたが、経過が長いため一刻も早い症状の改善を飼い主様が望まれたことと、ご自宅が遠方ですぐに再診が難しいことから治療を開始することになりました。
①低蛋白/低ブリン体食
肝臓病用の療法食です。(ロイヤルカナン 肝臓サポートやヒルズ l/dなど)
健康診断で肝臓値が少し高いと場合に飼い主様が自己判断で肝臓病用療法食を与えていることが稀にありますが、それは逆効果なのでやめましょう。
肝臓病用療法食は、肝性脳症や門脈シャント/肝不全に伴う尿酸塩結石の治療のために用いる蛋白制限食です。肝機能に問題のない肝臓値高値に対してはむしろ良質な蛋白質が十分量必要であり、蛋白制限食は逆効果です。
②ラクツロース
最も一般的に使用目的としては下剤として使う薬です。
肝性脳症の場合は腸内の酸性化を目的に内服します。
腸内を酸性化するということは水素イオン[H+]を増やすということです。[H+]が増えるとNH3+[H+]⇔[NH4+]の平衡が右に進みやすくなり、腸からのNH3の吸収が減って便からの[NH4+]の排泄を増やすことができます。
その結果高NH3血症が改善します。
③整腸剤
整腸剤はラクツロースによる下痢の低減と、アンモニア産生菌を減らすことによる高NH3血症の改善が期待できます。
③抗生剤
腸内のアンモニア産生菌を減らします。
本来は第一選択ではありませんが、ラクツロースの在庫がなかったために処方しました(ラクツロースは後日郵送しました)。漫然と投薬を継続すると腸内細菌叢の乱れを招くので注意が必要です。
追加検査など
初診日に開始した治療で臨床症状がかなり改善しましたが、必要な追加検査を実施しています。
諸事情により他院で尿の細菌培養検査を実施していただき、当院でBTRの測定と食前食後の総胆汁酸濃度検査を行いました。
尿路感染による高アンモニア血症の増悪がないか、肝機能低下によるアミノ酸バランスの不均衡がないか、高アンモニア血症の原因が肝機能異常異常もしくは門脈異常なのかどうかを確認する検査です。
本症例の今後の診療は、飼い主様のお住まい近くの動物病院で受けていただくことになりました。
考察
まずは自分の診療の反省点です。
セカンドオピニオンでいらしている症例の血液検査でNH3を最初から測定しなかったのは良くなかったと思います。
尿路結石や尿酸アンモニウム結晶から高アンモニア血症を疑うことができましたが、肝性脳症では尿路結石が必発するわけではないため、見逃す可能性がありました。
今後は、原因不明の体調不良の検査として血液検査を外注で行う場合には、当院で依頼している富士フイルムの健康診断セットに加えて、院内機器でのNH3とCPK測定を必須にしようと思います。
次に、飼い主さん側の立場でセカンドオピニオンを検討した方が良い場合を考えます。
セカンドオピニオン症例を診察させていただく中で、後医は名医になりがちだということを踏まえても、当院だったら最初の時点でもう少し違ったかもしれない、と思ってしまうことが多いのは、「画像検査を行っていない」症例です。
実際に診察現場を見ているわけではないので推測でしかありませんが、セカンドオピニオンで当院を受診される飼い主様は、愛犬/愛猫の状態がかなり悪いと認識されていて、ある程度のコストがかかることは覚悟の上で最初の動物病院を受診されていると思われます。
それにも関わらず血液検査しかされていないことがあります。
血液検査だけである程度の診断がつく病気も多いですが、それだけでは基本的に不十分です。画像検査が行われていない場合、血液検査項目も不十分であることが多いです。
動物の体調が悪く、しかし、典型的な症状がなく部位が特定できない場合に行う検査はある程度決まっています。
当院の場合は
・血液検査
・胸部/腹部レントゲン検査
・胸部の迅速エコー検査(胸水・心嚢水・左房拡大・心筋肥大(猫)・右心拡大(犬)の有無)
・腹部エコー検査
・尿検査
が基本です。
状況により、心エコーをもう少し詳細に診たり、血圧測定を行ったり、SPO2測定を行うなど、その他の検査を追加することもあります。
また、命に関わる危険な状況の場合は、動物の状態安定化を最優先して最初に行う検査は最小限に減らすことがあります。状態が改善してから順次追加検査を行います。
ここで覚えておいていただきたいのは、慢性疾患でそれなりに重症な病態であれば基本的に①血液検査+②レントゲン検査+③エコー検査までは行うことが一般的だということです。尿検査は行わないこともあるかもしれません。
血液検査の測定項目が適切なのかどうかは、獣医療関係者以外には判断が難しいと思います。しかし、レントゲン・エコー検査をしたのか/していないのか、というのはわかりやすいと思います。
(もちろん、飼い主様から費用制限のお申し出があった場合には血液検査のみを優先することがあるでしょう。それで診断がつかない場合は同じ動物病院に再度相談に行って、コストがかかっても担当獣医師が提案するその他の検査を受けましょう。)
愛犬/愛猫の状態が悪いから動物病院を受診したのに、検査が全くなかったり血液検査のみだった場合は、処方された薬は飲まずに、他の動物病院でセカンドオピニオンを受けることを検討しましょう。
近隣の飼い主様は、はら動物病院までご相談にいらしてください。

