犬のホルモン反応性尿失禁

尿失禁の鑑別疾患には、神経異常・腫瘍・結石・膀胱炎・異所性尿管・尿道括約筋機能不全など、様々な疾患が挙げられます。
まずは臨床症状である程度絞り込んで行きます。
今回のテーマのホルモン反応性尿失禁の場合、尿漏れは常にではなく寝ている時主体で、普段の随意排尿は正常なはずです。基本的には避妊済みの女の子の病気です。

卵巣から分泌される女性ホルモン エストロジェンは、尿道括約筋の機能に作用していると考えられています。
避妊手術によりエストロジェンの分泌がなくなると、尿道括約筋の機能が低下して尿失禁が起こることがあります。
大型犬の方がリスクが高く、避妊手術後2~4年程度で発症するのが一般的です。

まずは受診すべきです。
もしかしたら膀胱炎や膀胱結石かもしれません。
治療すべき病気かもしれないので、尿失禁を認めるのであれば動物病院を受診しましょう。
その上で、その他の病気が否定的でホルモン反応性尿失禁などの尿道括約筋機能不全が疑わしいとなった場合に治療するかどうかは、お困りの程度次第だと思います。

失禁が軽度で、都度拭けば問題ないのであれば治療の必要はないと思います。
しかし、尿失禁の量が多く皮膚被毛についてしまい、悪臭や皮膚炎の原因になっている等で生活に支障が出てしまう場合は治療を行った方が良いでしょう。

当院のような一次診療動物病院では、尿失禁の症状(間欠的であること)や、避妊手術済みの女の子であるかどうかなどの問診の確認と、尿検査や画像検査で、膀胱炎・膀胱結石・腫瘍がないことを確認します。
更に踏み込んで検査する場合は、排泄性尿路造影により異所性尿管がないか確認した方がより良いでしょう。
確定診断は、上記を実施した上で尿道圧の測定ですが、国内でその検査まで行っている施設があるのかわかりません。通常は行わない(行えない)と思います。

「ホルモン反応性」尿失禁だと言っているわけですから、基本的にはホルモン剤を投与するわけですが、動物病院によっては、尿道括約筋を刺激する交感神経作動薬を使うこともあります。
海外ではProinというフェニルプロパノールアミン(PPA)製剤が犬の(ホルモン反応性に限らない)尿道括約筋機能不全の治療薬として販売されています。これを輸入して使っている動物病院も少なくないと思います。

もう一つの選択肢はホルモン剤です。
こちらもIncurinというエストリオール製剤が海外では犬用治療薬として認可されています。
日本では、動物用に認可されたエストリオール製剤はありませんが、人の医薬品のエストリオール製剤を動物病院でも取り扱うことが可能です。

フェニルプロパノールアミンは、かつて人でも使われていましたが、脳出血のリスクを高めることが明らかとなり、現在は人医療では使われません。従いまして国内製造のPPA製剤は存在しません。

入手性の問題から、当院ではエストリオール製剤を使用しています。
エストロジェン製剤のため、骨髄抑制などの副作用リスクがゼロとは言えませんが、弱い薬なのでほとんどの場合には長期使用しても安全だとされています。
投薬量はIncurinの添付文書と同じように使っています。

尿失禁でお困りで動物病院にかかったのに、「異常はないのでどうしようもない」、と言われてしまうことが稀にあるようです。
もちろん、治療困難なタイプの尿失禁もありますが、お薬で症状をコントロールできることが多いです。
特に避妊手術の2~4年後に発症した尿失禁はお薬でコントロールできる可能性が高いため、1軒目の動物病院で様子見といわれてしまったら、別の動物病院に相談することを検討しましょう。

当院近隣の飼い主さまは、はら動物病院までご相談にいらしてください。